目覚め
「なんで……」
ココが口を開くや否やきっとナイトは彼女を睨む。ココはあまりの覇気にペタンとガタガタと揺れる箱の中で座り込んでしまった。ナイトは彼女から目を話すと再び俯いてしまう。
「………ナイトの俺はもう誰も求めちゃいなんだ………その点盗賊に捕まったらどうだ?何かしら役目を………必要としてくれるんじゃないか?」
ナイトはそう言って笑う。しかしココは目が泳いでいるのを見逃さなかった。同じ箱の中の残りの二人は失望したように項垂れた。
「………私はあなたを必要としてます」
「………武器屋に使われるより、盗賊の方がまだ元の職業らしい仕事ができるぜ」
二人の間に静寂が続く。ガタガタと箱が揺れる音がするのみだ。ナイトは人々を守るのが仕事じゃないの?そんなことはいえなかった。ココ自身が武器屋として矛盾を抱えているからだ。逆に武器屋なのに武器を売らないの?そう言われたらココは何もいえない。
しばらくすると馬車が止まったようでそれに繋がれた箱も揺れがおさまった。
「盗賊のアジトってとこか?」
金髪のナイトは箱の外側を想像するように、箱の壁を見渡した。残った二人はいよいよ悲壮な感情を抑えきれないようだ。
「助けてくれよ……ナイトさん」
「………私たちどうなるの」
箱の扉が開いた。鍵を持った盗賊の一人がナイフをちらつかせながらココたち四人に降りるように促す。特に手足を縛られていないので逃げられる、とも期待するがあたりは20名近くの盗賊が捕まった人々を囲んでいる。
そのうちリーダーらしき長髪をまとめた男は岩に腰掛けて被害者たちを眺めていた。捕まった人々はどうなるのか、何をされるのかガタガタ怯えていた。
長髪のリーダーはココたちの方に目をやると不思議そうな目をして近づいてくる。同じ箱の女性が悲鳴を上げる。しかしリーダーが手を伸ばしたのは金髪のナイトの方だ。
「お前………服装………領主んとこのナイトの一団の一人だな?」
「元な」
「ナイトが易々とつかまるとは思わないんだが………スパイか?」
リーダーは金髪のナイトを足元から首までゆっくり観察する。鍛えられた四肢、靴、軽量かつ丈夫な革製とチェストプレート、帯剣こそしていないが盗賊に襲われても抵抗、もしくは逃走は難なくできそうな風貌だ。
「………違う。俺は俺の流儀が使えなくなったから……」
「辞職したのか」
「そうだ。理由は知らないが一斉に剣の流派を変えろと言われた。それまでも大体はみんな同じような流派だったが俺は俺のやり方でここまでやってきた………この国のNo.2になるまで」
ナイトは悔しそうに歯を食いしばった。自分のやり方で、認められて、しかしそれをいきなり否定されたとなれば辞職もやむを得ないのかもしれない。盗賊も被害者の中にもナイトの境遇に同情を示したりするものもいた。
「ほう……だからって盗賊に捕まってお前は何がしたいんだ?」
「俺のやり方で今までの仕事を続けられりゃいい………」
盗賊の一部は吹き出した。ナイトも笑うがその笑顔はどこか悲しげだ。憂いを含んでいるのをココは見逃さなかった。
ココたちのピンチには変わりない。被害者たちは変わらず盗賊のアジトの前で捕まったままだ。希望があるとすればココの袋の中の武器だ。しかしココにそれらを振るう力と技術はあれど気力が、勇気がなかった。
昔からココは武器屋として武器を扱えるように訓練はしていたものの逃避に至る今日までなにかを傷つけたことはなかった。
ココが自分の気質に嫌気がさして袋に手を伸ばしてみる。しかし加害がどうしても怖くてその先の行動につながらなかった。
「おいそこの嬢ちゃん、何してる?」
盗賊のリーダーはいつの間にやらココの目の前に移動していた。ココはあまりの迫力にその場にペタンと座り込んでしまう。盗賊はココの袋の中を探った。
「おいおい………まさか武器をこんなに持ってるとは思わなかったな。捕まえた奴らの荷物チェックはちゃんとしないとな」
「か、返して!武器屋として!私はそれを売らなきゃいけないの」
ココは盗賊のズボンにしがみつき袋に手を伸ばす。盗賊はひょいと袋を上げるので届かず手は空をきった。
「嬢ちゃん………この剣2振り?杖一本………ガントレットか?なんでもっと早く歯向かわなかったんだ?箱を砕いて逃げることもできたろうに………」
盗賊は袋の中を覗き込んだ後へたり込むココにニヤリと歯を見せる。
「そ、それは」
「怖いか。武器屋なのに」
盗賊リーダーの一言で他の盗賊は吹き出した。彼らからすればその矛盾はおかしなものだろう。ココは今にも泣き出しそうだった。ナイトは何も言わずにココを見つめていた。
「そ、それでも私は進みたいの………前に。武器屋だから武器を売りたいの!気質に合わないってわかってる。でもどうしても………小さい頃から譲れないの!!」
今にも涙がこぼれそうな顔でココは言い放った。笑い声は治り、盗賊のリーダーは袋をこちらに放り投げる。
「武器だ。今俺を倒せばみんなを解放できるかもだぜ?」
涙は目から溢れ出し、悲痛な声を漏らす。武器には手が届くのに、みんなを守れるのに、怖くて怖くて仕方がない。傷つけるのが怖い。
盗賊はため息をついて袋を再び拾い上げようと手を伸ばす。ココは布袋にしがみ付いた。
「はなせ。嬢ちゃんには必要ないだろ」
「やだ………譲れない…」
思い切り袋を引こうとした盗賊のリーダーは一段と力を込める。ココの非力な腕から袋が剥ぎ取られようとしたその時、リーダーの手を誰かの手が掴み止めていた。
盗賊リーダーは自らの手を掴むその男を横目で見つめた。そして冷たく言い放つ。
「どういうつもりだ?嬢ちゃんより矛盾の塊だぜ?」
「すまない」
金髪のナイトはココに向かって申し訳なさそうにそう呟く。ココは訳がわからなかった。何がすまないなのか。彼は盗賊の一員として今までのような仕事がしたかったのではないのか。
「悪い。目が覚めた。俺は元ナイトだが………小さい頃から譲れないのものを………自分を………思い出せた」
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