武器屋
石畳の街を抜け、彼女の逃避行はいよいよ旅の現実的なものとなってきた。目の前には洞窟、武器を売るための相手などいない。洞窟を抜けた先の街に行ってみようと思ったのだ。
「おい嬢ちゃん!一人でその洞窟は危ないぞ!」
洞窟へ向かう途中3、4人から言われたが進むと決めた以上止まらるつもりはなかった。ココは息を吐いてゆっくりと洞窟に入る。暗さよりも途中足元でパキパキとした音がするたびに彼女は振り返った。何かを踏む。それは彼女の不安の一つに他ならない。踏んでしまったと一度でも考えると戻りたいとさえ思ってしまう。何も踏んでないことを確認したいのだ。
何か踏んでないか確認しながら洞窟をとりあえず抜けることに成功する。しかし他の人なら10分で抜けるところを彼女は2倍近くかけることになった。
「前途多難………」
ココは少し疲れた顔で洞窟を振り返って呟いた。そして体の向きを変えて次なる街へと進もうとした瞬間体に縄が巻きついた。突然のことに大切な武器の入った布袋を体に引き寄せるのに精一杯でココはその縄の持ち主によって引きずられていった。
「ちょ、どういう………」
「悪いねお嬢ちゃん!盗賊だよ」
「そんな………!」
岩陰と木陰から同じように縛られた人々が盗賊によって引っ張られている。彼らは洞窟抜けをして疲労したものたちの荷物を狙っていたのだ。
「全員箱に入れろ!」
盗賊のリーダーのその一声でココたちは木でできてはいるが頑強そうな箱へと入れられた。4人ほどが座って入れる大きな箱だ。そしてそれは馬車へと繋がれていた。馬車は2、3台ココは視認したがその全てに箱が繋がれていた。おそらく同じように被害者が入れられているのだ。
しばらくすると馬車がガラガラと出発する音が響いた。箱の中はより一層、音と振動が響いてきた。ココは同じ箱に入れられた3人を見つめた。皆等しく座り込み、項垂れていた。
しかしココから出るという選択肢をココはまだ捨てていなかった。喫茶店の店員と会話をして、武器を売ると決めたのだ。加害が怖くても武器屋として前進する、その硬い覚悟はここで捕まってココはゲームオーバー、では納得しない。
「どっか出れるとこは………」
ココは自分の背丈よりも高い壁をガリガリとかいて突起物を探した。しかし登れるようなものもない。箱の上部には登ることを阻むように返が付いている。
「もう無理だ」
ココの漏れそうになった声を代わりに呟くように誰かが口にする。ココが声の方を振り向くと鎧をきた一人の男、金髪でココと同じくらいの歳のナイトが見えた。ココより随分体力も気力もありそうな彼もまた座り込んでいる。
「………でもこのままじゃ………あなたはいいんですか?」
「………よくない。でももう無理さ。みろよこの俺を、元ナイトなのに剣の一振りも持たずに、しかも盗賊に捕まった」
ナイトは自分を嘲るように笑い、視線を戻した。ココは彼の言葉でドキッとした。彼は確かにナイトだと言った、もしかしたら今自分が持っている武器を渡せばみんなが箱から出られるかもしれない。しかし盗賊が気づき戦闘になったら………そう考えるとココには勇気が出なかった。布袋から剣を一振り取り出す、そんな単純な動作一つが、彼女は出来なかった。
みんなと同じように座り込み、諦めてしまうべきか。盗賊に何をされるか分からないが全て受け入れてしまうべきか。
しかし壁に背中と手をつき、ずり落ちるように座り込もうとするココの体を何かが引き留めた。
「………ダメよ………進むって決めたじゃない」
箱の壁に寄りかかり、ガタガタ揺れる箱の中でココは立ち上がった。深呼吸をして、今やるべきことを整理する。目の前のナイトに武器を渡す、そうすれば盗賊から皆を解放してくれるかもしれない。その過程で戦闘が起きればココにとっては好ましくない状況だ。傷つけることに極力関わりたくない。
しかし売ると決めた、矛盾を抱えてながらも。まずは全てをナイトにいってしまう方がいい、ココはそう考えた。
「ねぇナイトの人………」
「………なんだよ」
ココは布袋から一振りの剣を取り出した。それをみた箱の中の3人は驚いた表情だ。しかしナイトは見たくないとでもいうかのように目線を剣からすぐに離した。ココは銀色の柄と鞘をギュッと握って切り出した。
「これ私が作ったの。私はココ。私武器屋だから」
「………そう」
「でも私は武器屋として矛盾を抱えてる………人を傷つけることにあんまり関わりたくない。加害が………怖い。普段だってそう………いつも無意識何がやってしまってないか気にしてるの」
ナイトは目の前で震えながら剣を抱えている少女を揺れる箱の中でじっと見つめていた。他の捕まった人々もかのしよのことばに耳を傾けている。
「でも武器屋なの。今の手持ちだけでも売りたいの。前の進みたいの」
「………その剣で盗賊から人々を解放してくれってか?」
「………お願いできますか」
ココは剣を横向きに差し出した。しかしナイトの少年は剣の方を見もしなかった。まるでわざと視界に入れないようにしているかのようだ。その様子を見て他の被害者たちも言葉を発し始める。
「頼む!家族が待ってるんだ!ナイトさん!」
「私からも頼むわ!あなたしか頼れないの」
ナイトの少年は今度は視線を自分の足元に向けた。まるでココも他の被害者たちとも関わりたくない、というように。金髪がプルプルと震えていた。それが馬車に繋がれたこの箱の振動でないことはココにもわかった。
「………俺はナイトじゃない。元ナイトだ。」
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