第3章 大罪
第45話 帰り道
「ふぅ、疲れた……」
「あぁ、本当にな」
ダンジョンの最下層に潜っていた俺とミレラは長時間にわたるダンジョン散策をしたのちに、今は一定の成果を得て地上へと戻って来ていた。
最初はミレラの奇跡を使って出てくるモンスターの動きを確認し、そのあとは俺が前に出て、モンスターのヘイトをかって戦っていた。
俺が倒したのは今日の成果のうちの二割いっていたらいい程度の数だが、これも一つのパーティ形だと考えれば、受け入れることができる。
そして、ミレラの言っていた通り最下層とはいえ、モンスターの強さは俺でも勝てる程度であった。連戦になったり、複数体の敵に囲まれればたちまち苦しくなるが、その時はミレラがサポートしてくれるので悲惨なことになることはなかった。
ほぼ一日中潜っていたこともあり、成果の方もかなりのものになっていた。
「さすがにこれだけあれば、それなりの額になるでしょ」
「そうだな。帰りにバルダの店でなにか買って帰ってもいいかもな」
「そうね。あの子たちもきっと喜ぶと思うわ。そのためにもまずはギルドで今日の成果を売らないと」
朝とは違う賑わいを見せる街の中を俺たちは歩いていく。寄り道など一切せずギルドへと俺たちは向かう。
そして、間も無くしてついたギルドの前でピタリとミレラが足を止める。
「私一人で行ってくるからここで待っててくれるかしら?」
「わかった。頼んだ」
「うん」
俺をギルドの前に一人残し、ミレラはギルドの中へと入っていた。
一人ギルドの外に取り残された俺は、特にすることもないので渋々夜空を見上げることにした。
「綺麗だなぁ」
どこの街で、どの場所で、どんな時に見上げようが、雲のない夜空というのは決まって綺麗であった。そして、今日も雲などなく、満天の星空が広がっていた。少し贅沢を言うなれば、もっとあたりが暗い場所で見れば、もっと小さな輝きまで見られたのだろう。でも、この場所から見る夜空も十分に綺麗であった。
そんな空を見ながら、気持ちはつい先ほどギルドの中へと入って行ったミレラへと向けられる。
ミレラが一人でギルドへと行ったのには二つの理由がある。一つは、今日のダンジョンでの成果の全てをミレラが持っているため。そのため、俺が入ったところで意味がない。そしてもう一つは、ミレラと俺が一緒にいるところを見られないため。外で歩いている分には、もしもミレラのことに気づき、注目してくるやつらがいても、そいつらからすれば俺はただの人間Aに過ぎない。だから、あまり注意する必要がないが、ギルドの中となると変わってくる。一緒に行動し、ましてや一緒にダンジョンの成果を報告するものならパーティであることは誰の目に見ても明らかになる。そうなれば注目は避けられないため、ミレラ一人でギルドの中へ入り、すぐに出てくるようにした。ちなみにこれはダンジョンを出る前に考え、話し合っておいた俺たちなりの対処法であった。
その甲斐もあり、ギルド内は少し騒がしくなっているが、それはおそらくミレラの存在ゆえ。そこに俺がいないことで、それ以上の騒ぎにはなっていなかった。
そんな、賑わいを背に聞きながら俺は視線を前に移した。その時、目の端で何かを捉えた。
しかもそれは、誰かが一人の女性を路地裏へと引きずっていくような瞬間であった。
ミレラにこの場にいるように言われたが、すぐに戻ってこればいい。なにより、ミレラの奇跡を使えば俺のことなど容易に見つけられるだろう。ならば、今向かうべき場所は一つしかない。
人混みをかき分け、女性が引き込まれて行った路地裏のところへと着く。しかし、そこにはもう誰の姿もなく、路地裏は不気味に真っ暗闇となっていた。
「少しだけ……」
俺はポーチの中から灯りとなるものを取り出し、それを使って、目の前の闇を光で照らす。とはいえ、その程度の灯りではせいぜい数メートル先までしか視認することができず、その奥まで見ることが叶わなかった。
「入っていくしかないか……」
嫌な予感をひしひしと感じながら、それでもその嫌な予感が当たらないことを信じて俺は闇の中へと突き進んで行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます