第六話 「」マイノリティ、達。中編

初めてカーリング場に入る私は、その冷たい空気にぶるぶる震える。

空気が張り詰めていて、なんていうか、冷凍庫の香り?


カーリングというスポーツは聞いた事もあるし、見た事もある。

ブラシでゴシゴシ擦って大変そう。

それが私の印象。

でも、まさか自分がやるなんて。

「チェアカーリングって言うんだぜ」

松山君が得意げに言う。

確かに。

車椅子の人が氷の上で競技をしている。

「身障者」が「健常者」と一緒にスポーツ??

そんな事が許されるの?

私は松山君を見上げる。

「良いんだぜ。氷の上に乗ってもさ。乗せてやるよ」

私の心を見透かしたように松山君が言う。

私の横で付き添いのママは、ちょっと心配そう。


この松山 京まつやま きょう君。

本名は松山 京子まつやま きょうこと言うらしい。

分かった事は性別的には女性で。

精神的には男性。

そして結構問題児。

簡単に言うと喧嘩っ早い。

からかう男子にはすぐに手を出して喧嘩していた。

入学初日から喧嘩してたみたいね。


でも、口が悪いけど、なんだか憎めない。

それにアニメヲタク。

ナントカ言うアニメがどうとか、展開が熱いとか、私が興味なくても一方的に話して、翌日にはマンガやらアニメのDVDやら貸してくれる。

あと、中二病?

カーリングストーン投げるとき、いちいち必殺技を叫ばないと投げられない。

でも、ちょっとかわいい、かな。


そして恐ろしい程にお節介。

結局「彼」の強引な誘いで、私はあれから数日後、カーリング部の体験入部に来ていた。


そして「彼」は色々私に教えてくれた。

チェアカーリングでは、デリバリースティックというフックの付いた棒でストーンを投げるデリバリーする事。

チェアカーリングではブラシでゴシゴシスウィープはしない事。

「俺が後ろで車椅子を支えてやる。だから佳乃よしの、思い切り投げろ」

「彼」はいつの間にか私を呼び捨て。

「あのスキップのブラシの先端をよ〜っく狙え」


顔が近い。

私はチラリと「彼」の横顔を見る。

真っ直ぐな、真っ直ぐな瞳。

凄い目力めぢから

私は自分の顔が上気するのを感じる。

おかしいかな。

「女のコ」同志のはず、なのに。

「お前、良い線いってる。オレが見込んだだけの事はあるぜ」

白い歯を見せて無邪気に笑う、松山君。

日に焼けた顔と白い歯のコントラストが、眩しい。

もちろんそんなの嘘だろう。

でも。

こんなに何かに一生懸命になるのは。

いつ以来だろう?

その晩、私はクタクタになって、久しぶりにぐっすり眠った。


私が松山君…京ちゃんを好きになるのに、それほど時間は掛からなかった。

「彼」はそこらの男子よりカッコよくて。

女子…年下からも年上からも人気があった。

でも男子とは喧嘩ばっかしてた。


ある日の部活の後。

カーリングホールの二階ラウンジで京ちゃんと休んでいた。

皆早々と帰っていて、誰も残っていない。

ママが迎えに来るまで、京ちゃんも付き合ってくれているのだった。


自販機からドリンクを取り出そうとして、私がバランスを崩して。

京ちゃんが支えてくれた。

瞬間、鼻が触れ合う程近い距離に京ちゃんの顔。

私は顔が赤くなるのを自覚して、目を逸らす。

「キス、したい」

突然京ちゃんがそんな事を言う。

心臓が跳ね上がる。

顔がさらに近付く。

「オレのこと、嫌いか?」

私はふるふると首を振る。

「でも、私達」

女のコ同志だよ、と言おうとして。

京ちゃんが私の唇に人差し指をあてる。

「佳乃、「女」とか、「男」とか、そんな「」外しちまえ」

私が目を閉じたのと、唇に柔らかい感触がしたのは、ほぼ同時だった。


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