第六話 「」マイノリティ、達。前編

私、新田 佳乃にった よしの「障害者」になったのは小学校六年生のとき。

両足が麻痺なんて、そんなことになるなんて思ってもいなかった。

だって私は「健常者」だったから。


その時から私は車椅子での生活になった。

松葉杖で歩けなくはないけど。

私の両足は車椅子の生活になってからみるみる痩せていった。

まるでごぼうのよう。

感覚もないその足は付いているのかいないのか。

触らなければ私にもその存在は分からない。


例えば抜歯の祭に麻酔を打つ。

麻酔が効くとぐにぐに押されても、歯茎が押される感触はあっても痛みは感じない。

それと同じ。

私は自分の足を何度も触る癖がついた。

…足が本当に付いているか確かめるように。


両親の介護がなければ学校にも通えなかった。

中学校は皆とは違う学校に通った。

その時から私は皆の邪魔にならないようひっそりと暮らすように心掛けた。

「健常者」の邪魔をしてはいけない。

「障害者」は隔離されて別の場所で生きる。

そういう世界として、私は新たな、以前より低い視点からしか見えないこの世界を受け入れた。

私はこの時、諦めながら生きる方法を身につけた。


現代は昔と違って「障害者」が住みやすい街になったと思った?

残念でした。

そんなものは、ありません。

私がまだ「健常者」だった頃。

両親に連れられてカナダと言う国に行った事がある。

キラキラ銀色に輝く街、バンクーバー。


随分車椅子の人が多い国なんだって。

私はママに言ったっけ。

ママは言った。

「違うわ。この国では車椅子の人が外に出やすいのね。全てが平らに作られている。だから、外に出やすいんだわ…。日本と違って」

それから数年後に自分の娘が車椅子になるなんて、ママには想像もしなかっただろう。

もちろん私もだけど。


車椅子って邪魔になるんだよ?

車椅子対応のトイレだって待たなければならない。

「健常者」が使っていれば私は待たなければならない。

だって私が使えるトイレはここだけなんだから。


高校は、両親の勧めで私立学園に進学した。

そこは私のような「障害者」を積極的に受け入れてくれる学校だと言う。

ここの理事長は「障害者」と「健常者」を一緒に生活させればお互いメリットがあると考えているらしい。

ホントかな?

「健常者」にメリットがあるだけじゃない?

…イジメられるのは、嫌だよ。


私が「彼」に出会ったのは入学式の次の日。

正確には入学式で挨拶くらいしたはずだが、私は「彼」を意識していなかった。

私はクラスの端っこ、出口に近い席を割り当てられた。

私の初日の感想は。

早く帰りたい。

それだけ。 


ようやく長い一日が終わり私は誰とも離さずママを待っていた。 

「お前、足が悪いのか」

突然話し掛けられて戸惑う。 

女のコ…の声。

だけど振り向くと…男のコ?

ショートカットなんていう程度じゃないベリーショートの髪。

日に焼けて、いかにも健康的な肌は、青白い私とは対照的。

意思の強そうな太い眉。

切れ長の瞳が少年のように輝いている。

胸は少し膨らんでいるけど、男子の制服を着ている。

それでも顎はほっそりしていて…。

綺麗?

カッコいい?

そのジェンダーレスな姿にほんの一瞬見惚れる。

そして不躾ぶしつけな質問に戸惑う。

「え、えと」

「オレ、松山。松山 京まつやま きょう。お前さ、カーリング、してみないか?」

私は戸惑い、次いで面食らう。

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