第五話 「あるカーラーの挫折。あるいはすぐ先の未来」
その時の私は、まさかこんな形で自分の夢「オリンピック出場」という機会が奪われるとは考えてもみなかった。
スポーツをやっている者であれば一度は夢をみるであろう、オリンピック。
ただ、それは夢で終わる場合が多い。
それでも諦めず挑戦をし続ける。
機会を信じて日々練習を続ける。
反復につぐ反復。
精度をひたすら上げる毎日。
何人もの友人が、その舞台を夢見ながら現実世界へと戻っていった。
「現実を見ろ」
「夢を追いかける歳じゃない」
何度そんな事を言われただろうか。
この日本でプロリーグのないカーリングという競技において、仕事を掛け持ちしないで練習出来る選手など、存在しない。
仕事をしながら、コーチで日銭を稼ぎながら時間を絞り出して練習する毎日。
そんな日々の中で『オリンピックに向けて』という言葉は我々を支える合言葉のようなものだった。
では可能性があったかと言うと可能性はあったと思う。
少なくとも機会が与えられれば。
202×年冬季オリンピックのボイコット。
この突きつけられた事実を受け入れられた選手が、何人いるだろう?
オリンピック開催国であるC国で自治区に対する治安維持を目的とした法律が可決されたのが数年前。
そしてそれは大国同志の新冷戦と呼ばれる事態へと発展。
その法律が"海外においても適応される"という内容だったためC国へ渡航することは、当局に拘束される危険があるという懸念を、世界の人々に与えた。
SNSは当局によって監視されている…その疑念と民主化活動家への弾圧。
各国は連携してC国の自治区に対する弾圧に対抗した。
その結果の一つがオリンピックへのボイコットだった。
結局の所、オリンピックはまたしても政治利用されたのだった。
私は自分の肩を抱き、夜空を見上げる。
そこにはいつもの星の瞬きはなく。
ただただ、鬱々とした暗黒の世界が広がっているだけだった。
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