27

「遅かったねぇ。とりあえず適当に頼んでおいたけど・・・後ろの人たちは?」


「鍛冶屋の店主と領主様直属の騎士だそうだ。話を聞きたいとな。」


「え、アルさん何かやったんですか?それなら早めに自首した方が・・・。」


「・・・ダンジョンで拾った剣についてだ。詳しくは店主から。」


「おう。お前さんらが拾ってきた剣だがな、ありゃ最低でも10層からしか落ちねぇ剣だ。等級は上から3番目、雑じりのないルーク鋼で作られた名品だが、名称不明がドロップ品っつー証拠だ。そいつを1層で拾ったってんだろ?」


剣についての説明を終えると、今度は騎士が話し始める。


「そこで、我々が丁度その話を耳にしてな。拾ったとは、どこかに落ちていたのか?」


そういえば詳細を伝えてはいなかった。


「いえ、僕たちは徘徊していた敵を倒して・・・。」


フェルズが途中で黙る。


「どうした?」


「アルさん、剣は今どこに?」


「俺のインベントリだが。」


「出していただけますか。」


流石に店の中で無断で武器を出すわけにもいかない。従業員に一声かけ、騎士にも許可を取った後にインベントリから剣を取り出し、フェルズへ渡そうとした瞬間騎士の一人が大声を上げた。


「待て、その剣・・・!いや、だがそれは・・・。」


「やはり、見覚えがありますか。」


「どういうこと?一人で納得してないで私たちにも教えてよ。」


「鎧の形ですよ。大きさこそ違いますが、ダンジョンで戦った鎧とそこの騎士の鎧は同じ形です。」


「へぇ?よく見てるねぇ。」


「っ・・・!っ・・・!・・・それで、もしあの鎧が元騎士だとしたら、剣も同じなのではないかと思いまして。」


一瞬言葉に詰まったのは、「お前も後衛なら相手をしっかり観察して戦うようにしろ」「属性の相性とかあるかもしれないだろう」などと言いたかったがギリギリで飲み込んだ感じか。

それは後から説教してもらうとして、先ずは目先の問題だ。俺は逆光かつ剣の方に集中していたため詳細な鎧の形は憶えていないが、フェルズが言うからには間違いないのだろう。それ以前に、騎士の反応が雄弁に物語っているのだが。


「その剣は、我々騎士の正式装備だ。それがドロップしたという事は、その敵は・・・。」


「しかし、何故?仮にあの鎧が騎士だったとして、敵になっている意味が分かりません。ダンジョン内で死亡した人は敵になるのでしょうか?」


「いや、そのような話は聞かないし、そもそもここ数年騎士団から除隊になった人物はいない。」


「つまり、あの鎧は誰か特定の個人が敵になったのではなく、騎士の姿を模しただけの敵と言うわけになります。」


「それはありえない。ダンジョン内に出現する掠種は各地で固定されている。恐らく、ダンジョンを生み出した存在が個別に掠種を生み出しているためだと考えられているが、少なくとも数百年前から観測されていた。」


今回俺たちが潜ったダンジョンでは、狼・猿・鳥以外出現したことが無いとのことだ。つまり、例え突然変異したとして、間違っても鎧姿で生み出されるようなことは無いらしい。


「・・・ここで考えたところで埒が明かないでしょう。今回私たちは敵が一体のみかつ有利な状況で戦えたため倒すことが出来ましたが、もしあれが集団で現れた場合対処は難しいかと。」


「あぁ、そうだな。今回の件は依頼に追記し、明日から情報の収集も加えてやってもらうことにする。無論、その分の依頼料も上げよう。一先ずは先行して君たちに情報量を渡しておこう。」


裏付けも取っていないのに良いのだろうか?と思わなくもなかったが、別段虚言で金を奪おうと考えている訳でもないためありがたく頂戴する。


「では、明日以降も引き続き頼む。もし何かわかったことがあれば最優先で報告をしてくれ。」


そう言いメッセージアドレスをこちらに渡すと、彼らは店から出て行った。


「店主もご足労いただきありがとうございました。よければ御一緒にいかがでしょうか?」


「俺ぁカミさんが飯作ってっからよ、戻らねぇと家に入れなくなっちまわぁ。」


「それは失礼を。仕事の後まで拘束してしまい申し訳ありませんでしたと、奥様にもよろしくお伝えください。」


「おめぇは言葉遣いが堅苦しいんだよ。この町にいる間は何べんも来るんだろ?なら、もっと普通に話しな。おめぇのお仲間も抱かんな。」


「・・・あぁ、わかったよ。今後ともよろしく頼む。」


「おうおう、それで良いんだ。なんたって俺の方が年下だかんなぁ!」


「え、ちょっと待って、年下なの?嘘でしょ?どう見てもアルより20歳は上でしょ!?」


エルが驚きの声を上げる。しかし俺もこの髭達磨が年下とは思えない。


「何故そうだと?少なくともこの場にいる奴らは俺と店主を見比べても、俺が年上とは思わないんじゃないか?」


「そいつぁ見た目だけだろ?おめぇさん、中身の情報は誤魔化せやしねぇよ。まぁ、詳しかぁどうでもいいけどよ。んじゃ、俺ぁ帰るぜ。」


「あぁ、ありがとう。」


店主を見送ると、思い出したように腹が鳴った。飯屋にきても説明ばかりで結局何も食えていない。とりあえず何か食おうとテーブルの上を見ると、全て綺麗に片付けられていた。


おい、俺何も食ってないぞ・・・。

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