再びダンジョンへ6

一本道が続いているため見失うことは無いが、後ろからの襲撃を阻止するためにもエルが殿で後方警戒をしている。

視線の先にいる二体はあまりやる気が無いのか、周りを見渡すことも無くのっしのっしと歩いているがそれがこちらを罠に誘っていないとも言い切れない。


「(流石に考えすぎだと思いますよ。)」


「(俺もそう思うが、警戒して悪いことはあんまりないからな。)


「(その構えには僕も賛成ですが。)」


もしも俺たちの行動が向こうに筒抜けだった場合、前を歩いているやつらは俺たちを一網打尽にするために誘導していると考えられるだろう。その場合、返り討ちに合うのが関の山だ。


「(雑魚敵に手も足も出せず負けるのは癪だろう?)」


「(それは、そうですが。)」


「(ほら見えてきたぞ。)」


曲がった先に多くの光が見えた。ここまで来ても掠種の動きに変化はないので罠ではないのだろう。後続に止まるよう手で示し、完全に離れるまで待機する。その後、身振りで曲がり角の向こうへ戻るように指示する。


「メイト、光を出してくれ。」


「りょうかーい。」


ギリギリ見える程度だった視界が光に照らされ一瞬目を細める。


「もう少し抑えめで頼む。」


「ん。」


「・・・よし、ありがとう。さてさて?」


「どう見てもボス部屋だよねあれ。」


「もしボスだとしたら何が出るんでしょうね。」


「アレを見る限り、コマンダーの上にボス猿が乗ったやつ・・・かなぁ?」


「それだと良いんですが、先程の騎士が出て来ないとも限りません。もし出てくるのならもう少し準備をした方が確実かと。」


用意してきた物資と戦力でも恐らく問題は無いと思うが、出来るなら対人型の経験をもう少し稼いでおきたいのはある。


「そうだな、ちょっと待ってくれ。」


メニューを開き時間を確認するとそろそろ18時になるところだった。


「18時・・・これから戦闘し、勝つにせよ負けるにせよ終わったら再度準備してか。うん、今日は戻ろうか。」


「あたしも賛成ね。あと一時間もすればお店も大体閉まっちゃうし、それまでに戻って明日に備えた方が良いと思うわ。」


「そっかぁ、ごはん抜きになっちゃうのは嫌だなぁ。」


「今日は奢らないからね。」


「わかってるよぅ・・・。」


「・・・さて、戻るぞ。」


結局ダンジョンに再突入したは良いが、騎士一体を倒して終わりとなれば今日の収入は望めないだろう。

とは言え一応収入的にはギリギリプラスだし許容範囲内か。



ダンジョンから脱出すると、既に日は傾いていた。


「入りなおしてから一回しか戦わなかったから、なんかそんなに疲れてないね。」


「そうだなぁ。」


剣の耐久値がかなり減っているが、それだけの消耗で済んでいるのなら大した出費ではない。これを鍛冶屋に出して、以降の予定は何もない。


「俺は鍛冶屋に行ってくる。みんなはどうする?」


「僕たちは先に料理屋行ってるよ。何にする?」


「適当に肉で頼むわ。」


「オッケー。」


「あ、エル、預けてた剣ついでに見てもらうから出してくれないか?」


「忘れてた。ほいこれ。」


インベントリから大剣を出しこちらに渡してくる。

要求STRを確認すると、俺のSTRの2.5倍程度が表示されていた。


「分類はバスタードソード・・・そういやあの騎士は片手で振っていたな。」


かと言って今の俺が片手で扱うのはかなり難しい。しかし、バスタードソードは確か片手剣、両手剣どちらの心技やスキルも使える便利な性能をしているため構成と合致すれば戦いの幅は広がるだろう。


(どちらにせよどうにかできるかを確認しなければならないな。)


手に持っていた剣をインベントリに仕舞い、鍛冶屋に向かう。

一応今余っているステータスポイントを全て割り振れば装備はできるが、強いか弱いか分からない装備一つにそこまでするかと言うと流石にしないだろうし、そもそも機動力を殺す武器は選択肢に無い。


鍛冶屋に着き、消耗の回復を頼む装備を渡し、続けてインベントリから例の剣を取り出してカウンターに置く。


「あとこれなんですが、先程ダンジョンで拾ったんです。鑑定していただけませんか?」


「あぁ良いよ。何かの依頼かい?」


「ええ、領主からの。」


領主からの依頼と告げると鍛冶屋の親父は一瞬変な顔をしたが、すぐに思い至ったようで「あぁ!」と手を打った。


「ダンジョンの掃討か!そんなら鑑定料は領主持ちだ。買取もこっちで出来るからな!」


「そうでしたか、ありがたいですね。売却は・・・まぁ性能を確認してからですかね。」


「そらぁそうだ。ちゃちゃっと鑑定しちまうから待ってな。」


そう言うと親父は剣を持ち、剣の腹に手を当てるとその部分が光り出した。


「なるほどなぁ・・・終わったぜ。」


「どうでした?」


「・・・これぁどこで拾った?そんなに深いところまで潜ったのか?」


「?いえ、最初の階層ですけど。」


「んなわきゃねぇだろ!最低でも10層より深いところの産物だぞ!」


「・・・どうしてそうだと?」


「要求されてる筋力もそうだが、何よりもこの剣の材質だ。こいつぁ混じりもんのねぇルーク鋼で作られてる。ルーク鋼ってなぁダンジョンの5層からちらほら混じりもんが出てきて、純粋なルーク鋼が採取できるのは最低でも10層からだ。」


「つまり、何も混じっていない、そのルーク鋼だけでできている剣が出土するのはそれくらいから、と。だが、俺たちは確かに最初の階でこいつを拾った。」


「そいつぁ・・・。」


「その話、我々にも聞かせていただきたい。」


突如背後から声がかかった。振り向くと、黒い鎧を着た騎士が数人並んでいた。


「貴方達は?」


「我々は領主直属の騎士だ。今回の掃討作戦に関係ありそうな話だったのでな、申し訳無いが口を挟ませてもらった。」


「あぁ、そらぁ情報は共有しておかねぇとなぁ。」


「これを拾った状況はご説明できますが、これがどのようなものなのかについては店主からお願いしたいですね。」


「こちらも協力してもらっている身だ、そちらの都合の良い時で構わない・・・と言いたいが、内容によっては緊急を要する。済まないがこの後すぐに頼みたい。」


「えぇ、構いません。しかし、私一人ではなく仲間と共に獲得したものですので、彼らにも同席していただきたいのですが。」


「あぁ、わかった。店主もそれでいいか?」


「俺ぁなんだっていいぞ。どうせもう店仕舞いだしなぁ。」


「それでは行きましょうか。」


「お仲間はどこに?」


「飯屋ですよ。」


俺は騎士と鍛冶屋の店主を引き連れ、馴染みの飯屋に向かうのだった。

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