再びダンジョンへ2
いつも通りエルがいなし、俺とフェルズが一撃で倒していく。
余程強力な個体か、もしくは統率の取れている群れでない限りほぼ負けは無いだろう。
「うん、余裕だったな。」
「ログインからここまで、正直強敵と思える相手はいませんね。フルダイブで強すぎる敵を出すとプレイ人口が減る統計はありましたが、ここまで雑魚ばかりと言うのもそれはそれで・・・。」
「多少苦戦する程度の調整って難しいからな。実際に人が動かすことを考えれば、個人個人でその範囲が違うわけだし。」
「僕の父もバランスの調整にはかなり苦戦してたよ。」
「コントローラーを持つゲームからフルダイブに至るまでかなりの技術的発展はあったけど、人の運動能力は殆ど変動しないからな。結局どの層に合わせても不満が出るのは仕方がないさ。」
「難しいことはわかんないけど、私みたいなのでも遊べるゲームならたくさん出たよね。」
「身体的ハンデなんてダイブしたらあってないようなもんだ。」
むしろ現実では四肢が不自由だが、フルダイブゲームではトッププレイヤーと言う人は結構な数いる。
そうこう話しているうちに分岐点の前に人がいることに気付いた。
「お、お前らも依頼で来たのか?」
カイゼル髭に禿頭の巨体と一目見たら忘れないであろう風貌の男が話しかけて来る。
「そうだけど、君たちも?」
「そりゃもちろんだ。聞けば年に一回しか出ない依頼らしいじゃねぇか、そんなもんやるしかねぇだろ。」
この受け答えだけで目の前の男がプレイヤーだとわかる。
「そっちは一人なのか?」
「いや、アホの連れがいるんだが、斥候とか何とか言って先に行っちまった。右か左かわかんねぇからメッセージ送って合流待ちってわけだ。」
「勇敢なのか無謀なのか。さっき戦った限り、ここら辺ならそこまで難易度は高くないだろうし大丈夫だろう。」
男の装備は一目で一級品とわかるものなので、その連れも相応の装備とそれ見に合った強さを持っているのだろう。
「僕たちも先に進みたいので通っても?」
「ああそりゃもちろんだ。俺の場所ってわけでもねぇしな。でだ、一つ頼みがあるんだが・・・。」
「あ、それなら大丈夫だよ。そのお連れさん見つけたら声かければいいんでしょ?受けてあげるよ。」
「済まねぇな嬢ちゃん。頼むわ。」
「旅人は助け合いってね。それで、どんな人なの?」
「ヒョロっとした男だ。青いバンダナを巻いてるから見りゃわかると思うが、もし不安なら『カイゼルからのメッセージ読んでくれ』って伝えてくれりゃ大丈夫だ。」
男はカイゼルと言うらしい。特徴的な髭だし見たままだな。
「了解だ。俺はアルフィル、ここで会ったのも何かの縁だ、覚えておいてくれ。」
そう言ってフレンド登録を送る。
「おう、俺も知り合いが少ないうえにこの見てくれでかなり敬遠されててな・・・。ありがたく受けるぜ。」
話せば気のいい男とわかるのだが、巨漢で強面の第一印象からそこまで行くことが少ないのだろう。
「もし機会があれば組むこともあるだろうさ。それじゃ俺たちはこれで。」
「気ぃつけな!」
その声に手を挙げて答え、右の通路へ進んでいく。
◇
「顔は怖いけど良い人そうだったね。顔は怖いけど。」
「顔で性格が決まるならこの世の中に悪い奴なんていなくなるさ。」
キャラメイクでネタ以外なら美男美女にロマンスグレーで溢れてるからな、中身もさぞ美しいんだろう。
俺だって例外じゃなく現実よりカッコいいアバターをメイクしてるが、中身はこの通りだ。
「さてまた敵だ。いつも通り・・・。」
そう指示を出しかけた瞬間、思わぬ速さで猿が接近してきた。
「クソッ!」
狙いは先頭にいた俺だ。剣を抜く暇も無く手甲で爪を受ける。
ここに来て初めてダメージを受けた。視界に表示されていたHPバーが少しだけ削れる。痛みは無い。
「オラァッ!」
心技適正のおかげで多少強化された蹴りで距離を離しその間に剣を抜く。
「目で追えないことは無い!」
「私は無理!」
声と共に心術が飛んでくる。回復と攻撃力の強化だろう。
「僕たちで引き付けるからそのまま支援をお願い!」
「この速度で距離を詰められるなら弓は悪手ですね!」
フェルズは弓を消すと黒いガントレットを装備し、近くの猿を殴り飛ばす。
「お前何でもできるなぁ!」
「弓士として近づかれた時の対応は必須ですからねぇ!」
本職として負けていられない。細かなダメージは無視して一撃で首を狩ることに専念する。
爪を防いだ隙に、蹴りでかち上げた後に、踏み込んですれ違い様に、ストレがスタンを入れた直後に、最後の一体を切り伏せるまで剣を振り続けた。
◇
「終わったか・・・?」
どれくらい経っただろう、周りにドロップアイテムしか無くなりようやく一息着けるようになった。
「あの猿、初見で倒した時が硬直狙いだったのでわかりませんでしたが割と強敵だったんですね。」
「とりあえずアイテム拾って一回脱出しない?装備ボロボロだよ。」
「賛成ー。私も心力殆ど無くなっちゃったし。」
「メイトが居なかったらきつかったわね。勝手に飛んでくる回復ってかなり助かるわ。」
「じゃあいったん戻るぞー。」
メニューから脱出を選び、石像の前に戻る。
◇
「今回の探索で分かったのは、メイトの役割が必須なのとフェルズの対応力の高さだな。特にフェルズはどうなってんだあれ。」
遠近両刀、言うは易く行うは難しだ。
「先程も言いましたが、接近された際の対応は必須ですので。とは言え、心技もスキルも接近戦に使えるものはありませんが。」
「何もなしであれだけ動ければ十分だよ。リアルスキルなのかな。」
「まぁそこは色々と。他のゲームで培ってきたものもありますし、むしろある程度戦える近距離を補うために遠距離職を選択したので。」
「こう言っては何だが、思わぬ拾い物って感じだ。フェルズと言いメイトと言い、もちろんストレもだが自身の役割をきっちりこなせる上に他もできる人材って少ないからな。」
「僕もアルも一芸特化だからねぇ。ちょっとうらやましいかな。」
「いえ、僕たちだけでは決定的に手数も守りも足りませんから、純粋な近接職は特化している方が強力でしょう。エルさんのおかげでメイトさんへの攻撃は一切ありませんでしたし、アルさんのあの動きは正直怖いくらいでした。」
今回は回復を完全に任せていたから攻撃にのみ専念できた。自分の傷も厭わず剣を振り続けるのは傍から見たら少し怖いのだろう。
「メイトのおかげだな。まぁ、エルと二人だった時はダメージ受けたことも無かったんだが。」
「受けなかったというよりは、二人でも安全にクリアできるものだけを受けてた感じだからね。」
「それでも凄いですね。連携が良くないといけませんから。」
「もうかなり長い間二人で組んでるからな。さて、そろそろ装備の修理とアイテムの補充に行こうか。ストレの家でいいよな。」
「装備は隣の武器屋でお願いね。」
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