初ダンジョン

光が収まると・・・今度こそ正真正銘のダンジョンであろう洞窟の中にいた。


「はぁ・・・あの体験の後にダンジョン攻略かぁ・・・。」


「ぼやかないでくださいエルさん・・・。僕も流石にもう何もしたくないですよ・・・。」


「お前もぼやくな・・・。もうこれ以上衝撃的なことは無いだろうし、さっさと終わらせて帰ろうか・・・。」


皆疲労困憊だった。肉体よりも精神的に疲れた。今後のことは帰って寝てから考えないと駄目だな。


「はぁ・・・もう早くおわらせよ?それとも脱出する?明日でもそんなに変わらないよ。」


「いえ・・・。今日で終わらせてしまいましょう。もし監視されているのなら移動後直ぐに脱出するのは不自然ですので、可能な限りいつも通りに過ごさなければ。」


「それもそうだ・・・体感時間はかなり経過してるが実時間は1秒未満だったか。ずれが大きくて違和感が凄いな・・・。」


半日過ごした記憶はあるのに実際には1秒も経っていない。しかも話の内容が内容だっただけに整理もできていないため、自分でも気づいていなかったがかなり混乱していたようだ。


「なら、とりあえず依頼主のあたしからオーダーするわ。とっととボス狩って帰りましょ・・・。」


「さぁーんせー。早く帰ってご飯食べて寝よ・・・。」


「ようし、行こう行こう。このダンジョンは一本道だから進みながら雑魚倒してるだけで良いよ。」


「ではリーダー、方針の決定をお願いします。」


「よっし、じゃあ俺とエルで前衛を務めるからフェルズは援護を頼む。メイトは支援中心で討ち漏らしを頼む。ストレはどんな動きができるのかわからないから自由にやってくれ。」


「あたしは基本サポーターよ。多少攻撃もできるけど、メインは攪乱とか弱体とかかな。」


「オーケー、しばらくは俺たち4人で戦うから、適当に参加してきてくれ。」


「よくよく考えたらこのパーティ組んで初めての戦闘なんだよね。連携とか全く確認してなかったけど大丈夫なのかな。」


「本来であれば事前に役割を詳細に決めて一戦ごとに修正していくのが一番ですが、もうそんなこと考える気力も有りませんし流れで良いでしょう・・・。疲れていると言っても味方に誤射だけは絶対にしませんのでご安心ください。」


「私は心術の範囲がちょっと怖いから支援メインでいくよ。」


「そうだな、それが良いかもしれない。俺たちも心術・・・特に攻撃としての術はあまり詳しくないからな。」


心術についても街中では使えないため、ダンジョン内でどれくらいのものなのか確認する予定だったのだが総崩れだ。

それについては明日以降また適当なダンジョンで考えることにしようか。

そんな話をしながら歩いていると、道の先から複数の足音が聞こえてきた。


「来たぞ。エル、先制頼む。」


「任せて。」


三歩ほど前に進み盾を構えるエルに姿を見せた狼のような掠種が飛び掛かって来た。


「んー、今。」


それを盾の中心を鼻っ柱に叩きつけることで弾き返し、後続を一瞬足止めする。

盾に衝突するのを確認し、すぐさま俺も走り出す。手の動きから見て左側へと飛ばされるだろうと予想し、右側の狼を処理することにする。


「グルァッ!」


「口をあけてくれてありがとよ。」


剣を抜き、すれ違いざまに開いた口を切りつける。相手の勢いもあり殆ど抵抗なく通った刃は狼の顔を上下に分断し、ドロップアイテムに変わった。

盾の衝撃から立ち直った個体が左側から飛んでくるのが分かったが、まぁ大丈夫だろう。


「エルさん左へ。」


そう聞こえた次の瞬間


「グッ!?」


狼のうめき声が聞こえ発せられていた圧が消失する。見ると、綺麗に目から脳へと突き刺さった矢が目に入った。

あの一瞬で狙って当てたのか?だとしたら、想像以上に良い腕をしている。これなら気にせず背中を任せても大丈夫だろう。


「終わりっと。」


エルが最後の一体に止めを刺したようで、通路内に静寂が戻る。


「あっさりと終わったなぁ。ダンジョンってくらいだからもっと厳しい戦いになると思ったけど。」


「立ち上がりから完璧だったからな。あと、フェルズの狙いが完璧でかなり楽だった。」


「心技とスキルが二重に乗っていますので、これくらいならほぼ確実に。」


加算じゃなく乗算なのか?同じ、もしくは似たような効果を持つものはより強力になるのだろう。


「へぇ、スキルって凄いのね。あたしそんなの無いから羨ましいわ。」


「ストレさんにもスキルの欄が表示されていたのですし、覚えることは可能になったのではありませんか?」


「そうかもしれないけど、今すぐに何かってのは無理そうね。」


「おしゃべりは終わりだよ。また来た。」


「この程度なら私いなくても問題なさそうだし、もっと数増えるまで心力温存しておくね。」


ニコニコしながらさぼり宣言したメイトに何とも言えない視線を送り、そんな場合じゃないと戦闘に頭を切り替えた。

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