冒険へ

「さてと、これで最初の声に対する返事ができたな。他に何かあったか?」


そろそろここにきて半日ほど経つだろうか。


「そういや聞きたかったんだが、ここにいる間元の世界から俺たちは消えてるのか?結構な時間ここにいるんだが。」


「その通りですが、向こうでの経過時間は1秒にも満たないはずです。また、ワープに合わせてこちらに転送しましたので、気取られることもまずありません。」


1秒未満ってことは、最低でも5万倍は時間の経過速度が違う事になる。


「時でも止まってるのかな?もしそうならこっちで鍛錬すればそれだけで実質いくらでも強くなれそうだけど?」


「それは難しいと思われます。もし、大幅にステータスが変わってしまうと、ワープ前後の整合性が取れずにすぐ気付かれるかと。そうなってしまえばその間に何があったのか推察され、最悪の場合この世界から消去されるでしょう。」


「おぉ、それは怖いねぇ。そっか、だからそこまでの支援ができないのか。」


「ご理解いただけたようで何よりです。本来であれば確実な戦力になるよう相応のステータスや装備を与えたいのですが、もしものことを考えると・・・。」


「えぇ、それは理解したので大丈夫です。それより、本当に暫くの間は大丈夫なのですか?もし僕が敵側だとしたら、こんな回り道をしないで記憶を弄ったりして無理やりにでも戦力を整えた後攻め込むと思いますが。」


確かに回りくどさは感じていた。わざわざこの世界に送り込むための装置を開発し設定を捏造して、更にこの世界を攻略させることでその記憶を保持させたまま敵側の兵として転生させる・・・。


「ん・・・?」


一つ引っかかった。この世界を攻略させる・・・・・・・・・・


「あぁ、そういう事か・・・。フェルズのおかげで引っかかっていたものが一つ分かった。」


「何でしょうか?」


「あいつはこの世界を攻略してくれと言った。じゃあ、攻略とはなんだ?」


「それはまぁ、RPG的にはクエストをこなしてストーリーを進め、その途中で配置されるキーアイテムの収集やボスを倒し、最終的にはラスボスを討伐する、ですかね?」


「まぁ大体そうだろうねぇ。それがどうしたの?」


エルもまだわかっていないようだ。メイトに目を向けると、エルと同じように疑問符を頭に浮かべているようだ。


「あの男が敵側だとしたら、その攻略はどっち・・・からどっち・・・に向かっての攻略だ?進むべきストーリー、倒すべき敵は?」


「あー、そういうことね?私でもやっと理解できたよ。」


「んー?ん?なるほど、逆なのか。多分クラビさんの主って存在がボスとして設定されてるのか。封印されてるその、シグナムだっけ、それは接触しなきゃならないけど倒しちゃ駄目なのか。」


今まで聞いた説明が全て真逆になるんだろう。そして敵はタイミングを測る必要はない。適宜楔に封印された神をボスとして登場させ討伐を促し、楔を一つ一つ解放することで少しずつ守りを薄くして侵略しやすくする。


「封印されながらもこの世界を守っているという事でしょうか。なので倒すことはこの世界にマイナスと。」


「んー、封印は目的じゃなく妥協だった?最初は消すことを目標にしてたけど、達することができずに封印に留めた?」


「・・・皆様はどこまで知っていたのですか?」


「いやいや、僕たちは考察してるだけだよ。その材料が今までの経験上多いだけ。」


「まぁ伊達にゲームはやってきてないな。」


「僕はそこまでやってはいませんが・・・まぁヒントさえ頂ければなんとか。」


「私は全然わからないよ。」


本当に今までゲーム漬けの生活を送ってきたからな。様々なシナリオを踏破してきたんだ、類似の話から何となく背景は見えてくる。


「さて、その反応からおおよそ正解だろう。つまり、神の守りを突破できず倒しきれなかったが、それでもギリギリで封印は成功。そのおかげで外の世界から誰かを送り込むことが可能になった。」


「多分そこまで強大な存在は送れないと思います。もし可能なら直ぐにでも侵略を開始するでしょうし。」


「でも神が複数封印されたんだよね?最低でもそれくらいの戦力は行けるんじゃないの?」


「それならわかるかも。封印の直前に最後の力だー!みたいな感じで守りを強化したんじゃない?なんか前にそんな話読んだ気がするよ。」


漫画だろうか。残念ながらそっちはあまり詳しくないためわからないが、まぁそんなところだろう。


「なるほど、それで侵攻がある程度収まったのかな。」


ストレとクラビがずっと目を丸くしている。もし素っ頓狂な考察ならばクラビも訂正を入れてくれるだろうし、それが無いってことは問題ないか、もしくは全くの見当はずれでこいつらは何を言っているのだろうと考えているだろう。ストレは全くついてこれていないだけだ。

ストレは根本から世界についての常識が覆されている最中なのだから仕方がないか。後で落ち着いたら何とかしよう。


「だからこうやって僕たちのような弱い存在を送り込み、現地で強化することで神に届かせようとしてるわけですか。なるほど、それでこの世界の攻略と言うわけですか。」


「おそらくだがな。で、前に戻るけども、倒されると封印が弱まって今よりも強い掠種を送り込めるようになるんだろう。」


「それだと、攻略されたのに神が倒されないって状態になるからバレるんじゃない?」


「いえ、接続が確立した時点で敢えて封印を弱めますので大丈夫です。」


重要なのは最終局面でシグナムが解放されることだろう。世界の分離後にこの世界だけを守るようにし、そのタイミングでもう一つを破壊する。それでこの世界は脅威から守られることになる。


「勝利条件は理解したが、その後はどうなる?俺たちの世界が標的にされるだけじゃないか?」


「それについても問題はありません。先に説明したように根本はこの世界とつながっておりますので、こちらを守り切れる力を取り戻すことができれば自然と皆様の世界も守護されることとなります。こちらよりもより強力に。」


「なんだ、ここにきて最初の質問に答えてくれるんだ。後で聞こうと思ってたから良かったよ。」


「問題ないかな。それじゃあそういうことで行こうか。」


「では皆様を元の場所へ送還します。その際にスキルを埋め込みますので、もしも身体に不具合が生じるようでしたらまたお越しください。ライブラへと念じながら石像を利用することでこちらへ転送されるようになります。」


「了解した。」


そう言うと足元が光り始め転送が開始される。

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