イレギュラー

「ダンジョンと聞いて洞窟とか森とかかと思ったけど、これは・・・神殿か?」


正面にある門の上に、何かが描かれている。


「なぁストレ、あれって・・・。」


「・・・。」


「ストレ?」


答えない。何かあったかと振り返ると、ストレが顔を真っ青にしていた。


「どうした?何があった?」


「・・・あれ、あの紋章・・・。」


ストレが指差す先は、先程見た門の上だ。あれが一体どうしたのだろうか。


「わからないの!?層外の紋章よ!」


「つまり、ここは層外のダンジョン・・・掠種の巣窟という事ですか・・・?」


「けどさ、私たちただダンジョン攻略をしようとしただけだよね?なんでこんなことになるの?」


「僕にもわからないよ。何かの条件があったのか、ただのランダムなのか。」


ここに来る直前のウィンドウには『ダンジョンへ転送しますか』としかアナウンスされていなかったため、事前に察知することはできなかった。


「もしかしたらレアイベントかもな。とりあえず進んでみよう。」


門の方へ進もうとすると、ストレが叫ぶ。


「あんたたち、本当に何言ってるの!?層外に飛ばされたってことはもう二度と層内には戻れないのよ!?何でそんなに落ち着いてるのよ!」


「いえ、仮に死んだとしても石像の前で復活するだけでしょう?」


「・・・層外はその法則が適用されないのよ・・・。だから内から外へは一方通行、来てしまった時点でもうおしまいなのよ・・・。」


そう言い顔を俯かせてしまう。慌てて駆け寄るメイトを眺めながら、エルとフェルに話しかける。


「二人とも、そんなことがあると思うか?条件不明のイベントで強制データ削除なんて。」


「昔はほんの少しだけ存在してたらしいけど、オンラインゲームでは聞いたことも無いしあり得ないと思うよ。と言うか、そもそも誰も帰って来てないならそんな話が存在してること自体がおかしいよ。」


「僕も同意見です。恐らく、ただタイミング良く引退したか、他の場所に拠点を移しただけでしょう。」


「そうだな。・・・ストレ、少しは落ち着いたか?」


「えぇ・・・。」


「一つ聞きたいが、さっきの話は誰から聞いた?」


「確か・・・何かで読んで・・・?いえ、組合の人から注意を・・・?あれ?どこで聞いたの・・・?」


つい先ほど気を付けなければならないと考えたことを自らやってしまった。どの程度のAIかわからない段階でこのような状態に陥らせた時点でアウトだ。


「いや・・・もしかして?」


帰ってこられないというのは、ひょっとして今のストレみたいな状態になり崩壊するからではないだろうか?もしそうだとしたら、設計段階で仕掛けられたトラップとなる。


「ストレちゃん落ち着いて!私たちなんてそもそも知らなかったんだから大丈夫だよ!」


メイトが何か頓珍漢な慰めをしている。素でやっているのか?

そのおかしな言葉で少しだけ落ち着いたのか、ストレはメイトの方を見ながら「何言ってるんだこいつは」と言いたげな目をしている。


「図らずもメイトさんのおかげで何とかなりましたね・・・。いえ、あの言葉はどうかと思うのですが。」


「ま、まぁ落ち着いたのならそれでいいんだよ、うん。面倒だからメイトに丸投げしておこう。」


「俺たちは俺たちで出来ることをしようか。とりあえず入ってみないことには始まらない。」


「そうだね。メイトちゃーん、僕たち先に中見てるから、落ち着いたら来てねー。」


わかりましたーと返事をするメイトを残し、門の前へと進む。


「はー、大きい門ですねぇ。20メートルはありますよ。」


「これ開けられるのか・・・?びくともしないんじゃないか?」


「わからないよ?とりあえずやってみようか。」


エルが門に手を突き力を籠めるが、動く気配はしない。


「う~~~~~~~~~~~~~ん、流石に力づくじゃ無理だぁ。それなら条件だよねぇ。」


「人数ですかね。三人でやってみましょうか。」


今度は三人で押してみるが、やはりびくともしない。


「駄目だな。どうするか・・・。」


「三人で何してるの?私にストレちゃん任せて遊んでたの?」


「いやいや、門を開こうとしてただけだよ。開かないけど。それよりストレは大丈夫なの?」


「うん、多分。暫く黙ってたんだけど、突然吹っ切れたように笑って大丈夫だーって。」


「それは本当に大丈夫なんですかね・・・。」






それは突然だった。頭上から重圧と共に降ってきた荘厳な声。






『この世界を見守り幾星霜、漸く壁を超えるものが現れたか。仮初の身体に真なる魂を持ちし汝らを、我々・・は歓迎し祝福し、そして愁訴する。』


それはたった一つの頼み。幾星霜の封印の果てに見出したたった一つの希望。


『この世界を破壊してくれ。』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る