NPCとAI

いつもの石像前にストレ以外集まったことを確認し、依頼の内容について再度確認をする。


「これからダンジョンボスが落とす素材を拾いに行く・・・で良いんだよな?前にも言ったが、俺とエルはダンジョンの攻略をしたことがないから右も左もわからない状態だ。経験者からアドバイスを頼めるか?」


そう尋ねると、フェルズが説明の声を上げた。


「では僕から。簡単に言いますと、今から行くのは石像から直接飛べてパーティメンバー以外と鉢合わせることのない、いわゆる『インスタントダンジョン』と呼ばれるものとなります。基本的には一度入るとボスの撃破、もしくは全滅するまで脱出することはできません。」


「私は【緊急脱出】の心術があるから、安全地帯でならダンジョンから出ることができるよ。」


メイトが補足する。他にも使い捨ての脱出アイテムもあるようだ。


「ダンジョンからの脱出アイテムがダンジョン内で拾えるんだ・・・。そういうところはゲームっぽいよねぇ。」


「ですね。この世界としての法則とゲームとしてのシステマチックな法則が混ざって少し違和感があります。」


それは俺も感じていた。

この世界が本当にゲームとして設計されているのか、何か、言いようの無い不安がずっと燻っている。

それは多分、この世界が一つの世界として完成されすぎている・・・・・・・・・からなのだと思う。そんな世界に異物のようにゲームとしての側面が容赦なく目に入ってくる。


「まるで元からあった世界をゲームに落とし込んだみたいにな。」


そんなことを言ってから思わず苦笑する。


「駄目だな、少し深く思考するだけで直ぐに脱線する。自分が思っていたよりも不安を感じていたみたいだ。」


「いえ、僕もわかります。あの時程ではありませんが、時々やはり自分がわからなくなりそうな時がありますので。しかし、なんと言えばいいのか、そう考えてる自分を認識すると『あぁ、大丈夫だ』と思えるんです。」


「我思う、ゆえに我ありってね。まんまその通り過ぎて典型例として使えるよ。」


「エルさんはそう言うことありませんか?」


「僕は特に無いかな。こうなってしまったならそう受け入れるしかない。大事なのってさ、受け入れたうえでどうするかでしょ?僕はもうこの世界を堪能してやるって思ってるからね。」


「エルさんは凄いなぁ。私はまだまだ怖いことだらけだよ。結局さ、ゴールの見えないマラソンの真っ最中なわけだし。いつまで走ればいいのかも、そもそもみんなにゴールがあるのかもわからないし・・・。」


「いやぁ、そうだったとしてもその時はその時でまた考えればいいかなぁって。楽観的に見てるわけじゃなくて、そもそも見えないんだから考えるだけ無駄かなって。」


「あなたたちは一体何を話してるの・・・?」


ストレが合流してきた。


「あ、ストレちゃんおはよー。別に何でもないよ、ただ旅人としてこの先どうしようか―って話してただけ。」


完全な嘘ではないが、上手い誤魔化しだと思った。

高性能なAIは思考まで完全に自己完結してしまうため、場合によっては低性能なAIよりも脆弱性が多かったりする。

今のように、この世界を「ゲームの世界」と認識している俺たちと「自分が生きている世界」と認識しているストレとではそもそも世界の捉え方が違っている。

その為、何気ない疑問・・・例えば、何故旅人は死なないのかと言う疑問から深く掘り下げていくと、恐らくどこかで「設定が存在しない」質問にたどり着く。その場合、低性能なAIは早々に「わからない」と言う結論にたどり着くが、性能が高ければ高いほど「答え」を求めて思考のループにはまってしまう。最悪の場合自己崩壊を起こし機能が停止する。


「ふーん、そうなんだ。あんたたちってそこそこのランクなんでしょ?そろそろサブ職も視野に入れた方が良いんじゃないの。」


サブ職、いわゆる裏に設定できる職業の事だ。メイン職程恩恵はないが、サブとの組み合わせによっては馬鹿に出来ないシナジーを発揮したりするらしい。組合受付での説明ではそんな感じだった。


「俺たちもずっと考えてはいるんだがな・・・。結局表に合う裏を見つけられてないんだよ。」


「そうなんだよねぇ。そもそもサブの選択肢が少なすぎて、増やし方も依頼の達成以外わかんないし。」


「あ、それなら簡単ですよ。ダンジョンに挑めばいいんです。クリア時の報酬で職業アイテムが出ることがあるので、それを使えば選べるようになります。」


「え、そんなゲーム的な方法で増やせたのか・・・本当にこの世界はわからん・・・。」


「私も知らなかった・・・。と、ともかく、これから挑むダンジョンでも貰えるかもなんだね。」


「えぇ、おそらくは。なにはともあれ、挑戦しましょうか。」


そんな会話をしている俺たちを、ストレはおかしなものを見る目で見ていた。


「あんたら、そんな常識知らずでよく生き残れたわね・・・。」


「あ、あはは・・・。」


俺は誤魔化すよう笑いながら、ダンジョンへのトラベルボタンを押下するのだった。

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