NPC
仲間を増やすために組合に来た。
「とりあえずランク5以上の人に声かけてみよう。なるべくなら女性が良いが、それ以上に仲間になってくれることが大事だ。」
「あのぉ、私のことは気にしなくてもいいですよ?」
そうはいかない。臨時とは言え、パーティ内での不満が募ると命を預ける連携が難しくなる。
「何かあったときに同性はいた方が良いし、会話相手がいないとストレスが溜まるだろう。やはり気軽に話せるメンバーは必要だ。」
「・・・それでしたら、一人誘いたい子がいます。」
「さっき言っていたNPCか?」
「いえ、違います。」
メイトが以前の依頼で組んだNPCの事かと思ったのだが、どうやら別の人のようだ。
「この近くにある道具屋さんの妹さんなんですけど、毎日おしゃべりするんです。その時、ランク5の旅人って言ってたので良いかなと・・・。」
確かに情報も集まりそうな場所だし、道具屋とのことでアイテムなんかにも詳しいだろう。
「あ、もちろん入ってくれるとは限らないんですが・・・。けど、折角なら仲の良い子がいいなぁと・・・。」
「いや、元々誰か入ってくれれば良いな程度だったから大丈夫だよ。僕たちもあそこの道具屋はよく行くけど、妹さんがいたなんて知らなかったなぁ。」
「ま、とりあえず行ってみようか。もし駄目なら、それはその時また考えよう。」
◇
道具屋に着くと、メイトがさっそく話しかけていた。
「ストレちゃん、今日も来たよ~。」
「あらメイト、いらっしゃい。今日はどうしたの?」
相変わらずNPCとは思えない自然な会話だ。
「なぁエル、フェルズ。今俺たちは脳に電極ぶっ刺して生きてるんだよな?」
「そうだね。」
「えぇ、その通りです。」
少し恐ろしい考えが頭に浮かんでいた。いや、厳密にはこの世界にきてすぐ思い付き、一笑に付したくだらないものだった。
「NPCもさ、もしかして俺たちと
「同じって言うと・・・?」
「いや、ただの思い付きだし、確証なんてないんだけど。培養した脳ってことは、他にも数はあるんだろう。でだ、あんなに自然な対応をするNPCが普通のサーバーで、しかも今数千倍の時間加速をしながら安定して動かせると思うか?」
「・・・僕は難しいと思います。一人二人でしたら可能でしょうが、恐らくこの世界に存在する全NPCが同じと考えると、不可能なのは明らかだと。」
「僕も同意見だね。その上戦いまで出来るんだとしたら、ひとりひとりの独立した思考を処理しなきゃならない。そう考えたときに一番の方法は、僕たちと同じ状態にあるものをログインさせることだと思うよ。」
つまり、NPCは厳密にはNPC・・・ノンプレイヤーキャラクター等ではなく、単純に役割を与えられたプレイヤーキャラクターなのではないだろうか?
「一時期ゲームログイン時の思考誘導が問題になったことがありましたね。気付かぬうちに特定の思考に流れるように操作されていたというものでしたが、それを応用すれば、可能ではないかと思われますが・・・。」
「問題はなんでそんなことをするかだよね。いや、それも僕たちと同じ理由と考えれば納得か。結局は思考して自発的に行動が出来るなら脳の中身なんてどうでも良いんだ。」
「・・・俺は、何のためにこの世界を作り出したのかわからなくなってきた。ただ俺たちの進化を目指すだけならばここまで大掛かりにする必要なんてないんだ。」
「僕も考えていました。あの説明に来た男・・・今冷静に考えると、敢えて挑発するような言い回しをしていたように思います。反骨心からの奮起を狙っていたのかもしれませんが、もしかすると・・・いえ、流石に妄想の域ですね、ここまで来ると。」
後半は声が小さくよく聞こえなかった。
「ともかく、メイトは上手くやっているのだろうか。」
俺たちは変な考察をして交渉はメイト任せになってしまっていた。
「あ、そうでした、ここには仲間を増やしに来たんでしたね・・・。」
「そうだよ。全く、二人とももう少し緊張感を持たないと。」
「お前だって同じようなものだろうに・・・。と、メイト、どうだった?」
アホな会話をしていると、メイトとストレがこちらに来ていた。
「うん、仲間になってくれるって!けど、ストレちゃんのお店が今抱えている依頼を終わらせてかららしいから、私たちで手伝えないかな?って。」
「お店にない商品の取り寄せを依頼されていてね。素材の収集になるんだけどどうかな?あたしの力量を図る意味でもちょうどいいと思うんだけど。」
一石二鳥だねとストレが言う。
「一石二鳥はストレだけだろうに・・・全くちゃっかりしているな。」
その後依頼内容の確認と報酬の配分を話し合い、明日の朝から依頼に出発することとなった。
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