情報交換
適当に声をかけ、眼鏡・・・フェルズの教えてくれた店に入る。
「私も来ちゃってよかったんですか?」
最初の説明に同席していた杖を持った少女だ。確か心術士を選択したはずだったので、参考になるかと思い声をかけた。
「俺たちから頼んだんだ、むしろ来てくれてありがとう。さて早速だが、今後のことを確認していきたい。」
テーブルを囲むのは四人。俺、エル、フェルズ、心術士の少女ことメイトだ。他にも声をかけたが、殆どの人は休むようだ。
「【心力】を使えって言われても、明確な目標がないからね。回数なのか種類なのか理解度なのか。」
「結局使うのは僕たちの意思だったとしても、実際に発動するのはシステムのアシストを受けてですから・・・。」
何をもって使うと言えるのか。ただ単にゲーム上で使うだけならばストーリーを進めて世界を攻略していく必要性はない。そこらで適当に使っては回復を待つサイクルを繰り返せばいいだけだ。
それでは解決しないからこそ、あの男は進めと言ったのだろう。
「それで、私が呼ばれた理由って何ですか?」
「あぁ、俺たちは【心技】に関してはそこそこ把握しているが、【心術】についての知識が少ないから専門家の意見を聞きたかったんだ。汎用らしい【心術】は数個習得したが、それだけでな・・・。」
「なるほどぉ、わかりました。逆に私は【心技】についてさっぱりなんで、情報交換ですね~。」
「僕としては【スキル】についても気になります。わざわざ【心技】【心術】と別れているのは理由があるはずです。」
「多分、技術の枠に収まらないもの全般を【スキル】としてまとめてるんだと思うよ。僕も三つ持ってるけど、どれもよくわからないものだし。【盾】なんて名前だけ見たら意味不明だしね。」
「俺の【反応】は心技でもおかしくないが、そこらへんの厳密なカテゴライズはわからない。」
「僕は【弓】と【弓術】スキルを持っています。いつ覚えたのかはわかりませんが、同じようなものが二つ同時に存在することもあるようです。おそらくですが、【弓】が弓を使うすべての技能、【弓術】が弓で何かを射る技能にボーナスが入っていて、攻撃する際は二重で乗っていると考えられます。」
「私は【心力操作】ってスキルがありますよ。あと、【属性減衰】ってのも。」
説明を聞くと、【心力操作】は心術の発動時間を短縮する、【属性減衰】は防具の属性ダメージ軽減を強化するものらしい。
名前だけなら【心力操作】は脱出に必須ではと思えたが、実際の効果は心術発動のアシストのため直接的なかかわりはなさそうだ。使いこなす一環にはなると思うが、他でも代替は可能のようだ。
「【スキル】は良いとして、【心術】はどうやって習得したんだ?レベルか?」
「私は依頼の報酬で習得しました~。攻撃の術に関しては、報酬で本とか巻物?がもらえるんですよ。それを読むことで適性がある場合習得できるみたいです。」
「適正ってどこでわかるの?」
「実際に使ってみるまでわからないようです~。適性があれば光って消える、無ければ何も起きないみたいで。もし使えなかったら他の人に売ったり交換したりしてました~。」
俺たちの依頼報酬にそういったものが出てきた覚えはないため、職によって変わると考えて良いだろう。
「僕たちはそういうの貰ったことないねー。前衛だと覚えられないのかな?」
「いえ、多分覚えられます。依頼の報酬だけではなく、ダンジョンのボス攻略などでも出るそうですので。」
フェルズが言うには、特定の依頼を進行することによってダンジョンと言うものに挑戦できるようになるらしい。そこでは様々なアイテムが手に入るそうだ。
「俺たちは戦闘系ばかり受けてたから知らなかった・・・。どれをやればよかったんだ?」
「主に採取系と探索系ですね。なになにを取ってきてくれとか、どこどこの生態系を調査してくれとか。そう言うので周囲の知識を得ることで、色々とアンロックされていくみたいです。」
「この世界を攻略するためにはこの世界を知る必要があるってことか・・・。」
考えてみればその通りだ。何も知らないのに攻略など出来るはずがないのだから、やはりこの世界について知ることは急務だ。
「それで、今後なんだけど、僕とアルはNPCを仲間にするために今まで動いてたんだ。厳密には、NPCをパーティに加入させることができるか確認したかったんだけど、それっぽい依頼が無くてね。」
「あ、それなら私NPCとパーティ組んだことありますよ。【心術の試練】って依頼だったんですが、NPCが受ける試練のお手伝いでした。洞窟進みながら出てくる敵を倒すだけでしたけど。」
思わぬところから課題の一つが解決された。
「・・・NPCとパーティを組むことはできるんだな・・・。なら・・・。」
考える。どの立場のNPCを仲間にするべきか。前提として旅人であることが必須条件だが、なるべくなら交友関係がある程度広い人材が良い。
「誰を仲間にするか考えてるね?僕は組合の中で適当に見つければいいと思うよ。あ、ある程度ランクの高い人でね。」
ランクと言うのは、達成した以来の数によって決まっている組合独自のランクだ。10から段階的に上がり、最高は1。ただ、1だから強いというわけではなく、達成数での昇級という事で数字が少ないほど「信頼できる」旅人となる。
逆に、ランクが10の間は基本的に依頼主からは信用されない。実績がない人なんて大体そんなものだ。だから、俺たちが最初に掠種討伐の依頼を受けたときも村長から失敗を前提として準備されていた。
「そうだな。俺、エル、フェルズとバランスは悪くないが、出来る事なら後衛と中衛が欲しい。可能なら遊撃もだ。」
「・・・。」
メイトが何とも言えない顔で見ている。
「どうしたの?」
エルが話しかけると、少し言いづらそうにしながらも口を開く。
「・・・私もパーティに入れてもらえませんか?」
「俺たちに問題はないが・・・男ばかりだぞ?」
「それでも良いです。・・・前組んでた人たちが連絡取れなくなっちゃって。」
理由はわからないが気付いたら解散してしまっていたらしい。確かに後衛のソロは厳しいものがある。
「んー、まぁずっと固定じゃなく、メイトさんに新しい仲間が出来るまででも良いんじゃない?」
「では、半固定のような感じで良いのでは?」
「そうだな、臨時のパーティってことでそれでもいいか?」
「はい!一人になっちゃってこれからどうしようかと思ってたんですよぉ・・・。」
それなら、加入させるNPCは女性の方が良いだろうか?途中で抜けるとはいえ、それまで会話相手の一人もいないというのはきついだろう。
「それじゃ、食事終わったら組合行ってメンバー探ししようか。」
各々食事を頼み、その予想以上のおいしさに驚くのだった。
フェルズは得意げな顔をしていた。
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