選択

時間通りに起床し、城の部屋へと向かう。

ノックをしようとしたところで、ドアが開く。


「おはよう竜馬、良く寝れた?」


「良くも何もシステムで一瞬だったよ。今はその方がありがたいけどな。」


「だね。何も考えないで良かったから。」


会話が続かず、無言で昨日の広場へと向かう。



誰も口を開かない広場で待機していると、10時を告げる鐘が響いた。


「全員集まっておりますね。」


昨日と同じ男が現れる。


「それでは、意思確認を行います。」


そう言うと、目の前にウインドウが表示される。


『デリートを希望される方はYESをタッチしてください。4:59・・・4:58・・・』


簡潔なメッセージが表示されているが、これを押すと事実上の死が確定する。

俺と城は昨日の確認で生きると決めたため、何もせずに待つこととなる。

周りを見ると、眼鏡の男が押すか押さないかで指を立てたまま葛藤していた。

あのままだと押してしまうかもしれないが、それを止める権利は俺にあるだろうか・・・。


「っ・・・!」


指がウィンドウに触れる瞬間、気付けばその腕を押さえていた。


「どうして止めるんですか!」


どうしてだろうか。体が勝手に動いてしまっていた。


「・・・どうしてだろうな。けど、折角生きてるんだ、もう少しだけ長く生きてみよう。」


「今の僕たちが生きてると言えるのですか!」


「わからない。わからないが、俺はまだ生きていると思っている。少なくとも自分で考え、自分の意思で行動を選択できている。」


そうだ、多分それが答えなんだろう。誰が何と言おうと、今ここにいる俺だけが俺なんだ。


「もう少し、もう少し頑張ってみないか。今捨てるのは楽だが、それで終わりにするのは考えてからでいいだろう。」


ここで思いとどまればまだチャンスはあるんだ。


「もし今後が不安だって言うなら、俺たちと一緒に来てくれ。」


少し茶化し、


「見たところ後衛職だろ?俺たちのパーティがさ、前衛二人なんだ。腕の良い後衛が欲しいと思っていたんだよ。」


そう言って手を離す。頼む、首を縦に振ってくれ。これで駄目なら時間がないんだ。残り30秒。


「・・・。」


眼鏡の男は暫くウィンドウを見ていたが、苦笑しながら手を下げた。


「わかりました、もう少しだけ考えてみようと思います。今この一時の衝動で投げ打てるほど僕の命は軽くはありません。」


「そうか、ありがとう。あとでもう一人に顔見せするからな。」


「えぇ、それでは後程。」


ウィンドのカウントダウンはとっくに0秒になっていた。



「皆様の意思は理解しました。デリートを希望された方は・・・一人もおりません。」


そう言うと男は姿勢を正し、


「・・・本当にありがとうございます。これより、プロジェクト:ネクストジェネレーションについてお話いたします。まず、先にお話しした通り、今のあなたたちはコピーされた存在です。しかし、体がないため外に出ることはできません。そのため、最終的な脳の状態を参照しそれに適応した体を作り、そこに脳を移植することで転生をしていただきます。」


そこまでは聞いた話だ。


「その方法ですが、皆様には引き続きゲームをプレイしていただきます。その中で【心力】を繰り返し使い脳に学習させ、最終的に十分と判断された時に外に出る事が可能となります。ただ、時間加速の都合上脳の学習完了から体の作成が開始するまで多少お時間を頂きます。」


城の推測は当たっていたようだ。


「簡潔にまとめますとこのような流れになります。これから先、皆様で力を合わせこの世界を攻略していってください。」


そう言うと、男は消えていった。



「説明が終わったようだ。さて、また今後のことを話し合わなきゃな。」


「えぇ、そうですね。・・・えっと、あー、僕はフェルズと申します。」


「俺はアルフィルだ。アルで良い。」


「よろしくお願いします、アルさん。」


「さんも要らないが・・・まぁよろしくな、フェルズ。」


城・・・エルの元へと向かう。


「エル、パーティメンバーを増やしてきたぞ。」


「また勝手に・・・まぁ聞こえてたから理由は分かってるよ。僕はエルツァック。これからよろしくね。」


「こちらこそよろしくお願いします。」


「顔合わせは良いだろう。これからを考えるぞ。」


「そうだね、あの人はゲームを進めればいいって言ってたから、もう逆に吹っ切れて楽しむのが良いと思うんだ。」


そうできれば一番良いのだろうが、生憎そこまでの切り替えはまだ難しい。


「まぁ徐々にそう言う気持ちになれるように心がけては行きたいな。とりあえず、俺たちとフェルズの情報のすり合わせから進めようか。後は他にも人が欲しい。長くなるだろうし、適当に声をかけながらどこか飯でも食えるところに行こうか。」


「わかりました、それでしたらいいお店を知っていますよ。」


奇しくも俺たちは、現実での俺たちと同じように周りに声をかけるために歩き出した。

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