これから

「ネクストジェネレーション・・・つまり、あなたたちには次世代の人類として"転生"していただきます。」


正直ほとんど理解できない。自分自身が現実世界で動いている映像を見せられた辺りで、脳が処理できる許容量を超えていた。


「つまり、僕たちのログアウト先・・・体はもうなくて、新しく作るからそれに乗り換えろと、そういう事ですか?」


初日に同席していた眼鏡の男が尋ねる。


「えぇ、その通りです。」


「・・・そもそも、今ここで喋っている僕は生きていると言えるのでしょうか?自我はあると思いますが、ただコピーされただけの存在なのでしょう・・・?」


「そうです、培養された脳・・・・・・にコピーされた存在です。」


どうやら今の俺たちは、培養液に浸かって電極が刺さった脳に存在しているらしい。現実味が薄すぎて逆に笑えてくる。どこぞのB級映画を見ているような気分だ。


「そんな非人道的なことが許されているのですか・・・!?」


「それでも死ぬよりは良いでしょう。」


「死んだ方がマシだ!」


「もちろん、拒否権はございます。その場合、データのデリートをしますので、今後の活動はできなくなります。よくお考えの上ご回答を。」


デリートってことは、現状から考えると死と同義ではないか。ただ、今の俺たちを生きた人間だと考えて良いのかもわからない。


「皆様混乱されていると思われます。幸いにもこのサーバー内時間は現在600倍の加速をしており時間は沢山ございます。明日、今後のご確認をしますので、午前10時にお集まりください。それでは、失礼します。」


そう言い残し男は消えてしまう。

残るのは黙りこくっているプレイヤーだけ。今後どうすれば良いかも何もわからない。


「竜馬・・・とりあえずどこか休めるところに行こう。多分一人でいたらおかしくなっちゃう。」


「俺もだ。昨日泊まっていた宿屋にでも行こうか・・・。」



「・・・竜馬は説明の内容理解できた?」


「・・・何となくは。ただ、実際に自分の身にそれが起こっていると考えるのは難しい。現実感かなさすぎる。」


「そうだよね。あなたたちはデータの存在ですなんて突然言われても、何言ってるんだこいつとしか思わないよ。けど、例えCGとかだとしてもあんな映像を見せられると困惑しちゃうよね。」


「CGならよかった。・・・あれは多分現実に起こったことだ。俺たちがログアウト前にしていた約束を覚えて実行していた。つまり、ゲーム内の記憶を持っているってことだ。」


「それでも、ゲーム内の行動が保存されていて、それを参照したって可能性もあるけど。・・・いや、そこまでする意味もないか。自発的にここから出ることが出来ない時点で僕たちは進むか止めるかの二択しかないんだし。」


一応選択肢がないことを強調する意味はあるが、結局はそんなに変わらない。


「考えるべきは今後どうするかだ。仮に、なんだったか、転生?するとして、どういう条件でその権利を勝ち取れるのか。」


「確か、【心力】の使い方を脳に学習させるんだっけ。僕、なんとなくわかったよ。」


俺には全く分からない。存在しない器官の使い方などどうすれば覚えられるのか。


「どうすれば良いんだ?」


「この世界は何の世界?そして、この世界の技や術には何が使われている?」


そう言う事か、俺もわかった。


「つまり、この世界でゲームとして【心力】を使って慣れて行けと、そういう事か・・・。」


「僕は少なくともそうだと思う。じゃないと、訓練にゲームを利用する意味がない。本当なら、このテスト期間内で適応する人が出る予定だったんだろうね。けど、思った以上に進攻が遅くて誰もできなかった。」


【心力】の影響が表れた人たちが多数プレイヤーに選ばれていたのもそういった理由なのだろう。最初から持っていれば使うことも可能だろうとの考えか。


「情報の共有が難しい以上、手探りで進めるしかなかったからな。誰がどこにいるかもわからないのに、効率を考えるのは厳しい。」


「そこそこ進んだとは思うけど、【心力】を使う技術はそこまで増えなかったからねぇ。一番使い方がわかりそうなのが【遠見】だけだった。それもシステムのアシストが多くあっただろうから。」


結局、この一か月でこの世界の情報は殆ど集まらなかった。と言うのも、装備やアイテムを購入すると残った金額ではその日暮らしで手いっぱいだったためだ。当初の目的であったNPCの仲間を加入させるところまで行くことができなかった。


「考えていたら少し落ち着いてきたな。とりあえずこれからの方針は、この世界に残ってあの男の言った通りにするってことか。」


「と言うか、そうするか死ぬしかないなら少しでも可能性がある方が良いかなって。」


「そうだな。俺も現実には戻りたいし、それがどういう状態でかはわからないが、それはその時に考えるしかない。一先ずは生きる事だけを考えようか。」


「そうだね、じゃあ明日は遅れないようにね。」


「あぁ、おやすみ。」


城が部屋を出た後にベッドに横になると、起床時間の設定タイマーが出現した。


「・・・本当にまだゲームの中なんだな。」


明日の午前9時半に設定し、睡眠ボタンを押した。

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