第一章
ネクストジェネレーション
「ん・・・?」
ログアウト処理をしたはずが何故か初期地点に戻されていた。
「・・・何かの不具合か?まぁ、テスト段階だしそう言うこともあるだろ。」
戸惑いはあるが、運営側からのアナウンスを待つしかできない。
その間にも続々とプレイヤーらしき人たちが出現する。皆一様に戸惑いを隠せないように周りを見回し、一部の人は声を荒げ運営を呼ぼうとしている。
そんな光景を観察していると、後ろから声を掛けられる。
「竜馬も戻されたんだ?」
「城か。何があったんだろうな。」
「うーん、流石に僕もわからないかなぁ。けど、その内説明があるでしょ。それまで待つしかないよ。」
そんな話をしていると、石像の前に一人の男が現れた。
「皆様、この度は私共の作品にログインしていただき誠にありがとうございました。ただいまより現在の状況の説明をさせていただきます。」
どうせ不具合だろうが、せめていつ頃解放されるのかくらいは知りたい。とは言え、時間加速している関係上こちらで多少時間を食ったとしてもそこまで不都合はないが、それでも先がわからないのは精神衛生上よくないからな。
「まず、あなたたちのログアウトは正常に処理されております。」
一つ目の報告からして意味が分からない。
もしそうだとするなら、今ここにいる俺たちは一体何なんだ?
「わけわかんねぇこと言ってんじゃねぇぞ!予定あるんだからさっさとログアウトさせろ!」
「できません。既にログアウトした人を再度ログアウトさせる処理は存在しません。」
この男が何を言っているのか全く分からない。それなら、
「それなら何でまだ俺はここにいるんだ!?」
「はい、次にそのことについてご説明します。今ここに存在しているあなたたちは、この七日間の間にコピー・同期されたただの数値上の存在です。ゲームのテストプレイに七日間と言う時間を設定したのも、安全に脳をコピーするのに必要な時間だったからです。話が逸れましたね。この中の殆どの人は、最近原因不明の体調不良が現れていたと思います。」
俺には覚えがあるし、確か城も同じだと聞いた気がする。
「その原因は既に解明されております。半年前に隕石が地球に落ち、話題になったことは皆様承知と思われます。しかし実際に重要なのは、何故地表に落ちたかです。」
「撃墜できなかった理由か。」
そのことについては多少ニュースで見た。隕石が観測されたならば撃墜できていたはずだと、有識者たちが討論を交わしていたものだ。
ボソッと独り言をつぶやいただけだったが、静まり返っている広場では妙に響いた。
「その通りです。その理由は、あれが宇宙からの飛来物ではなかったためです。極秘事項でしたが、隕石は地球の大気圏内に突然亀裂が入り現れたと地球上のすべての観測器が示しています。」
亀裂?俺たちは"この世界"で亀裂から現れる怪物たちと戦ってきた。だがそういった設定の物語は古今東西多々存在しているので、偶然の一致と言う可能性も考えられる。ましてやゲームの開発期間から逆算しても合わない。
「それと俺たちの状況がどう結びつくんだ?」
「このままでは、全人類は死滅します。」
また壮大な設定の物語だ。
だが、ここまで全く荒唐無稽な話ばかり聞いていたせいで、多少苛々している。
「そんな与太話はどうでも良いんだ。真面目に説明をしろ。」
「私たちは至って真面目ですよ。この世界には【心力】と言うものが存在していますね?それが現実の世界でも存在することが確認されました。厳密には、隕石の出現とともに"活性化した"と表現した方が正しいでしょうか。そして、現実世界の私たちの体にはその力を制御する器官が存在しません。現状、取り込んだ【心力】は体に滞積する一方となり、身体機能に異常を来し始めます。それがあなたたちの体調不良の原因です。」
「・・・その話が本当だという証拠がない。」
「そうですね。その通りです。しかし、現実に起こっていることですので理解していただくほかありません。」
「・・・。」
俺は黙り込むしか出来ない。理解が出来ない。
俺以外も同様に黙り込んでいるが、そんなことは構わずに男は喋り続ける。
「こちらをご覧ください。リアルタイムでの現実の映像です。」
空中にモニターが出現し、見覚えのある建物が写される。俺たちが横になっているはずの病院だ。
その出入り口から見覚えのある顔が出てくる。城だ。
「なんで僕が歩いてるんだ・・・僕はここに・・・。」
少しの間を置き、一人の男が出てくる。
「俺・・・だ・・・。」
会話も聞こえてくるが、そのやり取りは今までの俺たちそのものだった。
ログアウト直前にしていた約束を果たすため、周りの人に声をかけ始めたところで映像は終わる。
「ご確認いただきましたように、現実世界ではあなたたちは既に目覚めております。ログアウトする体がない以上、処理を行えないというのは理解していただけたと思われます。」
「はは・・・。」
かすれた笑いが出るが、それ以上の声は出ない。
「しかし、私たちはあなたたちをここに幽閉し殺したいわけではありません。むしろ、この先を生き残るためにここにお呼びしました。人類が生き残るにはどうすれば良いか。簡単です、【心力】に適応すれば良いんです。しかし、仮に【心力】を制御する器官を体内に生成したとしても、脳がその処理を行うことができないため無意味です。ですので、あなたたちにはこの世界で【心力】の使い方を脳にインプットしていただきます。その後、作り出したクローン体に脳を移植することで、次世代の人間として死滅を回避する。それが、」
ネクストジェネレーション。
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