心技と心術2
自分の部屋に戻ると、窓の外が暗くなり始めていることに気付いた。
どうやらそろそろ夜らしい。ログインしたのが昼過ぎくらいなので、結構な時間戦っていたようだ。
「することも無いし明日の朝まで飛ばすか・・・。」
そう考えていると、目の前にメッセージウィンドウが現れた。
[これよりゲーム内時間の加速を行います。倍率は30倍となり、その間ログアウト処理は受け付けません。]
加速が行われるようだ。次にログアウトするのは大体一か月後か。事前に知らされていたものなので特に問題はない。
むしろ何も考えずにゲームを集中してプレイできる。
[なお、不具合の確認、修正にタイムラグが発生してしまうことをご容赦ください。]
時間の流れが違う以上これは仕方のないことだ。ただ、致命的な不具合の場合は時間加速を解除して対処するらしい。
これも今までに出たゲームの運営と特に相違はない。30倍なので確認してから解除までの間隔が大きくなってしまうことくらいだが、そこまで問題ではないだろう。
どうやら無事に加速開始したようだし、今度こそ休もう。
睡眠もシステムで簡単に行える。ベッドに横になり、起床時間をセットするだけでスリープに入り基本的には設定時間に目を覚ます。
その間は脳も休息状態に入るため、疑似的とはいえ圧縮睡眠にも利用されている技術だ。俺も仕事で忙しい時には専用のアプリを利用していた。
「さて、寝るか。」
起床時間を午前7時に設定し睡眠ボタンを押す。
5秒のカウントダウンの後、俺の意識はシャットダウンした。
◇
目を覚ます。窓から朝日が差し込んできているので問題なくスリープは機能したようだ。
体も違和感が無いし、むしろ質が高いスリープ機能だったようだ。
身体をほぐしていると、ドアがノックされた。
「アル、起きてる?起きてるなら昨日確認し忘れてたことがあるんだけど。
エルだ。
鍵を開け招き入れる。
「何かあったか?」
「うん、昨日戦闘したからさ、レベルどうなったのかなと思って。昨日の時点で確認忘れててさ、余裕だと思ってたけど意外と疲れが溜まってたのかな。」
完全に忘れていた。
レベルが上がるなりなんなりしている可能性が高い。
「そういや完全に失念してた。確認してみようか。」
LV:7
HP:150
MP:30
STR:30
INT :10
DEX:10
VIT :20
AGI :30
心技:【加速1】
心術:なし
スキル:【反応1】
残りステータスポイント:30
6もレベルが上がっていた。
「7になっている。思ったよりも簡単に上がるのか?」
「僕も7だったよ。後、【盾1】のスキルが生えてた。」
「俺も【加速1】って心技を覚えてるな。詳細を見てみよう。」
【加速】MPを任意のポイント消費して発動する。消費したポイント×1秒の間、速度が1.5倍になる。加速した倍の時間は再使用不可。
純粋な加速技だろうか?
エルにも説明する。
「速度ってのが気になるね。足の速さなのかそれとも。」
「あぁ、行動全般に反映されるなら、攻撃速度も1.5倍になりそうだ。もしそうなら攻撃にも回避にも使えるな。クールタイムもそこまで厳しいわけではないし、使用感覚にもよるけどかなり使えそうな心技だ。」
最初に覚えたものにしては有用だ。シンプルな分使いやすい。
「僕の【盾1】ってのは、盾を使った行動に補正が入るみたい。これも防御にとは書いていないから、盾を使った攻撃とかでも補正されそうだね。シールドバッシュとか、あるのかわからないけど。」
「そもそもその説明だと心技とかスキルとか使わなくても補正が入るから戦いやすくなるんじゃないか?・・・そもそも補正ってのが良くわからんが。」
「だねぇ。動きの補正なのか力の補正なのか、それら全部なのか。」
「それも後で試そうか。とりあえず村長に【遠見】だっけ、その心術を教えてもらったら模擬戦でもしてみようか。」
「じゃあさっそく村長のところに行こう、早く試してみたい。」
◇
村長のところを尋ねると快く迎えてくれた。
「昨日は良く眠れましたかな?」
「えぇ、ただ思っていたよりも疲れていたみたいで、食事を取るのも忘れて寝てしまいました。」
俺もエルの言葉で食事をしていなかったことを思い出す。
「それではかなり空腹でしょう。後程食事を出しましょう。」
「お気遣いありがとうございます。それでですね、早くで申し訳ありませんが心術を教えていただきたいと思いまして。」
「いやいや、問題ありませんぞ。簡単に出来るものなので先にやってしまいましょうか。」
椅子に座り準備をする。
「【遠見】」
村長がそう言うと、目に光が集まっていくのが分かった。
「わかりましたかな。目に心力を集めることによって視力を強化するのがこの【遠見】じゃ。」
何となくわかるが、どうやるのかまではわからない。
「何、簡単じゃ。目に力を集中して、【遠見】と唱えるだけじゃ。」
とりあえずやってみよう。目に力を集めるようにして・・・。
「【遠見】」
その瞬間、窓の外に遠く見えていた木が突然拡大されて映し出された。
「うおぉ!」
驚いて集中を解いてしまう。すると、視界がいつものものに戻った。
「一度で成功とはやりますな。わしは三日ほどかかったのじゃが。」
「ま、まぁ視覚の使い方には気を付けていましたから。」
動いている相手を正確に捉えるのは慣れないと難しい。
「それもそうですな。エルさんはどうじゃ?」
「僕も出来はしたのですが、アルがそこまで驚いた理由が良くわからなくて。」
「いやいや、あの木が目の前に見えたらそりゃ驚くだろう。」
そう言って窓の外を指差す。
「・・・いやぁ、流石にそこまでは見えないよ。ちょっと拡大されたくらいだよ。」
「初めてでそこまで見えるのは凄いですな。」
ステータスを確認すると、心技:【遠見3】となっていた。
「【遠見3】らしいです。」
「わしは30年かけて1から7にしたというのに、おぬしは最初から3か・・・。」
村長を落ち込ませてしまった。
「戦ううえで目はかなり重要ですからな。力の使い方もわかりやすいのでしょう。」
「そ、そうです。特に私は的確に相手を捉えていないといけませんので、自ずと鍛えられたのでしょう。」
「それは僕も同じはずなんだけど、僕は【遠見1】だったよ。」
「・・・と、ともかく、教えていただきありがとうございました。」
「あ、あぁ。心技も心術も使い続けることで強化される。今後も励めばその分強くなろうて。」
「ありがとうございました。」
お礼を言い、食事を頂く。
何から何までありがたい限りだ。
「この後は如何するので?」
「動きを確認するためにエルと模擬戦をしようかと思っています。」
「どこか暴れても良い場所有りませんか?」
「村から少しでも出ればずーっと草原じゃ。そこなら誰も文句は言わんじゃろう。」
「ではそちらでやろうと思います。食事、ごちそうさまでした。」
「気にせんでもええ、掠種から守ってもらったんじゃからな。」
再度、心術と食事のお礼を言い、村長の家から出る。
「それじゃあ、やりますか!」
「そうだね。」
村の外に向かって歩き出した。
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