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指示された部屋は談話室のようだ。
「失礼します。」
「どうぞ。お入りになられましたら椅子におかけください。」
「わかりました。」
高そうな革張りの椅子へ腰を下ろす。
「お名前をお願いします。」
「大角竜馬です。」
「あぁ!城君のお友達の方ですね!私は柏戸(かしわど)と申します。健康診断の結果はいかがでしたか?」
城の交友関係は一体どこまで広がっているんだ?
「最近体調が良くなかったと思っていたのですが、診断の結果は真逆で全体的に平均よりも良いらしいです。」
「体調が良くないとはどのような感じで?もし不意に意識が途切れたりするものでしたら、ゲームにダイブするのは危険ですので参加を認めるわけには・・・。」
「いえ、そのようなことは起きたことはありません。ずっと微熱が続いている感じと言いますか、多少体がだるいかな?と感じる程度です。」
そう説明したとき、柏戸さんの表情が一瞬強張った気がした。
「柏戸さん?何かまずいことでもありましたか?」
「いえ、何でもありません。城君も同じことを言っていたなと考えただけです。それでしたら問題ありませんので、これから業務内容の説明に移りたいのですが大丈夫でしょうか?」
「はい、お願いします。あ、その前にすみません、城も同じことをと言うのは、体の症状のことでしょうか?」
「ええ、聞きましたよ。詳しくは後程ご本人に確認されるのがよろしいかと。では説明に入らせていただきますね。」
「話の腰を折ってしまいすみません。」
「いえいえ、それでは、城君からも聞いていると思いますがこれから一週間、我々の開発したゲームをプレイしていただきます。その間は連続のログインとなり、基本ログアウトはできませんので先に健康診断で問題がないかを確認し、更にプレイ中に問題が起きた際に迅速に対処に当たれるよう病院の施設をお借りしているわけですね。」
「こういっては何ですが、よくいちゲーム会社がここまでの環境を揃えられましたね。」
すると、柏戸は照れたような、誇らしいような表情で、
「今回のプロジェクトは国が主導して進められたものなんですよ。ですのでついて行く間に気が付くとどんどんと規模が大きくなっていきまして・・・。」
城が言っていたことは本当だったんだな。国主導で製作されたゲームって何なんだ?まぁ流石に聞いても答えてもらえないだろう。
「話を戻しまして、基本的にはゲームをプレイしていただくだけです。期間は一週間ですが、最近の例に漏れずアクセラレーションシステムを搭載しており、等倍から30倍までの範囲で任意に加速させることができます。今回のテストが厳重になったのも、過去に例の無い30倍という加速を実装したためです。」
「30倍ですか?それはまた・・・。」
30倍と言えば、今までの最大倍率でも5倍速だったので更に6倍の速度となる。身体への負担がどうなるのかというテストも兼ねているのだろう。
「最新の機器とファームウェアで、30倍なら脳が耐えられるとのデータは取れていますが万が一があってはいけないので病院での実施となりました。一応慎重に慎重を重ねまして、等倍から5倍までは一度に、その後徐々に加速させその間はテスター一人につきスタッフが二人体制でモニタリングしますので安全面を信頼していただけた方のみ参加していただくことになります。」
確かに過去最大倍率となるなら病院施設での実施も納得だ。国主導となっているのもこれが理由なのだろう。
「なるほど、それは国の案件となるのもわかりますね。」
「それから、アルバイト代に関してなのですが、一日1万円、一週間なので7万円にプラスしてデバッグ情報により上乗せしてお支払する場合があります。これらはアルバイト終了後の受け付けでチャージさせていただきますので。」
「わかりました。私はお受けします。」
最初から内容については知っていたから特に問題もない。
答えると柏戸さんは緊張が抜けたように微笑み、
「良かったです。物々しい内容ですので、断られる方もおりまして規定人数を割ってしまったらどうしようかと。」
「まぁ、私は城から事前にある程度聞いておりましたので。」
「そうでしたか。もし受ける気が無かったらその時点で断っていますね。では、契約書を読み問題が無い様でしたらチップと指紋での承認をお願いします。」
契約書にざっと目を通したが先の説明とほとんど同じものだったので、さっと承認を済ませる。
「承認しましたのでご確認をお願いします。」
「・・・はい、確認しました。こちらが大角さんのカードとなりますので、こちらを持ってログインしていただくお部屋へとお進みください。そちらの扉から出ますと扉が並んでおりますので、手前のパネルにカードを読み込ませて自身の部屋を確認した後入室してください。」
「わかりました。では、失礼します。」
そう言い扉から出る。
「・・・頑張って、ください・・・」
扉を締める直前そう聞こえた気がした。
気を取り直して進もう。指示されたようにすぐ右手にあるパネルにカードをかざすと、一つのランプが点灯した。おそらくここが俺が利用する部屋なのだろう。
扉を開き部屋に入ると、ベッド一体型の業務用マシンがあった。
「すげぇ、業務用なんて初めて見たぞ・・・これ個人でも持てないかなぁ。」
等と考えていると、ベッドの上に紙が置いてるのが目に入った。
[こちらに横になり接続してください。ログイン後、アイコンが一つだけありますので、そちらにアクセスをお願いします。その後はサーバー内での指示に従うようお願いします。]
とりあえず指示通りに動こう。横になった後にジャックを首に挿し、マシンを起動すると目の前にARでメニューが展開される。
NG起動と名前の付いたアイコンが一つだけある。
「NG・・・何の略称だろう。ま、ログインしてみればわかるか。」
指でタッチすると、見慣れた60秒のカウントダウンが表示された。これが0になるとマシンを通じてサーバーに"ログイン"することになる。この間にファームウェアの確認やアップデート、接触不良などの精査をするので万が一問題が発生している場合はここで弾かれることになる。残り5秒まで進んでいるのでおそらく今回は問題ないだろう。目の前の数字が0になり、俺の意識は電子の世界へと沈んだ。
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