-13
バイト当日、地図アプリで経路を調べ会場にやってきた俺は少し困惑していた。
「住所はここで間違いないが・・・ここは病院だよな・・・?」
何故か指定された会場は病院だった。とりあえず受け付けで確認してみるか。
「すみません、ゲームのバイトを受けたのですが、記載されていた住所がここなのですが間違いありませんか?」
「こちらで間違いございません。受付いたしますので、こちらに手首をお願いします。」
センサーに手首を当てチップを読ませる。
「はい、確認が取れました。大角 竜馬さん・・・あら、城君の言っていた友達と言うのはあなたなのね。彼なら5分くらい前に受付したから、待機室に行けば会えると思うわよ。」
名前でも伝えていたのだろうか。ともあれ、あいつの顔を見るのは数年ぶりだ。
「こちらをまっすぐ進みまして、突き当りを左に曲がりますと階段がございますので、そちらを登っていただければ正面が待機室となっております。」
「ありがとうございます。」
「バイト、頑張ってくださいね。」
病院でゲームのバイトと言うのもおかしな話だが、まぁ城に聞けばわかるだろう。教えてもらった通り道を進むと、「テストプレイヤー様待合室」と書かれたプレートの掛かっている入り口があった。扉をくぐると中には10人程度の人がまばらに座っており、その中かに見知った顔を見つけ近づいた。
「よう城、顔合わせるのは久しぶりだな。」
「久しぶり竜馬。声ならこの間聞いたけどね。」
「そうだな。で、聞きたいんだがなんでゲームのバイトをするのに病院に連れてこられたんだ?」
「やっぱりそこは疑問に思うよねぇ。簡単に言うと、10日間のバイトって実は一回ログインしたら最終日までログアウトできないんだよね。だから、この後説明があると思うけど、開始前の健康診断と何かあったときのために迅速に対応するために、どうせなら病院でやろうかって話になったらしいんだよ。」
上からの指示だけどね、と小声で付け足して説明してくれた。
「待て待て、そんなこと聞いてないぞ!?と言うか、それは大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫、僕も前にやったけど何の問題もなかったよ。今回も開始前に健康診断でアウトだった人は参加できないようになってるし、仮にテスト中に問題が生じたとしてもここ病院でしょ?開始前に同意書は書くと思うけど、問題が発生した場合は会社がきちんと対応します~ってのも入ってると思うから。」
「俺体調不良なんだけど・・・。ま、もし診断で弾かれたらご縁が無かったという事だな。」
「弾かれるのは意識障害がある人とかだから多分大丈夫だとは思うよ。ナノマシンは打ってあるんでしょ?」
「一応打ったけど、正直それで治らなかった時点で病気の類じゃないんだよなぁ・・・。ジャック回りの不具合かとも思ったが問題なかったし、原因が謎だから今回で何かわかってくれればラッキー程度に思っておくか。」
「最先端の診断をタダで受けられるってだけでも幸運だからね。もしかしたら何かわかるかも。」
「期待はしてないけどな。おっと、そろそろ時間か。座ってりゃいいのかな。」
そんなことを話していると奥の扉からスーツ姿の男性が入ってきた。説明が始まるようだ。
「おはようございます。本日はお集まりいただき誠にありがとうございます、私は月岡と申します。どうぞよろしくお願いいたします。早速ですが、これからの流れについてご説明しますのでお聞きください。質疑については説明の後に時間を取りますので、その時にお願いします。まず―――」
15分ほどの説明がされたが、簡潔にまとめるとこの後すぐに健康診断。ここで問題が無かった人が同意書にサインし、アルバイトが開始となる。基本一日一万で十日で十万のバイト代だが、それとは別に発売日の前日に参加者(健康診断で弾かれてしまった人も含め)全員にゲームのパッケージ版が送られてくるらしい。
これだけでもかなりの大盤振る舞いだが、テストの進行度によってはプラスアルファで上乗せがあるらしい。想定外の挙動やシナリオ上の矛盾点などを報告し、それが重大なものであればあるほど多くなっていく。なるほど、ただ遊ぶだけではなく、限られた時間で細かいところまで見てもらうには良い案だと思う。俺も我ながら現金だとは思うが、俄然やる気が出たのでまんまとつられてしまっている。
既に受付順に健康診断に移っている。割と後の方に着いたためもうしばらくかかりそうだ。時間を潰すため、隣の城に話しかけることにした。
「ゲームするだけで日給一万なんて大丈夫なのか?」
「大丈夫、これも全部国から出るって言ってたし。本当に今回はいくら使ってでも成功させなきゃならないみたいだね、形振り構っていないよ。」
「これ、城の紹介じゃなかったら怪しすぎて説明受けた段階で辞退してそうだな。何から何まで至れり尽くせりの環境でゲームをするだけでそこそこの金が手に入る・・・。完全に詐欺を疑うわ。」
「僕も同じかな。最初話を聞いたときはとうとうヤバい手法で儲けようとし始めたのか・・・と思ったけど、まぁまともな話で良かったよ。」
苦笑で返す。城の親父さんは昔からゲームには真剣らしいので、変なことは起こらないだろうと考えている。
「さて、そろそろ僕かな。」
「おう、健康診断で弾かれたら終わったら飯でも奢ってくれ。」
「大丈夫大丈夫。それじゃお先に。」
城が呼ばれた直ぐ後、俺の番が回ってきた。看護師に付いて行き検査を済ます。およそ30分ほどで終わり、また待機室へ戻ってきた。
「検査終わったらまた戻ってくるんだね。まぁ、検査してその場で結果が出るわけないか。」
「それでも格段に短くなったらしいけどな。俺たちが社会に出たときの診断だって、大体一日は結果出るまでにかかってたし。そう考えると科学の進歩って凄いよな。」
「ナノマシンが出てから医療自体が早く正確になっていったよね。最初は体に機械入れるとか考えられないーって人が多かったけど、どれだけ便利か広がってからは声が小さくなっていったし。」
「そりゃあ最初は恐ろしいだろうな。若い世代はそこまで拒否感は無かったろうが、上の世代には新しいものは受け入れられない!ってのも一定数はいるし仕方がないさ。」
「そうだね。おっと、最初に検査したがまた呼ばれてる。結果出たみたいだよ。」
「相変わらず早いなぁ。これで問題無ければ晴れて合格、と。」
話しているうちに城が呼ばれ、その後俺の名前も呼ばれる。呼ばれた人が戻ってきていないところを見ると、合格にしろ不合格にしろ待機室には戻ってこないようだ。
再度看護師の後ろに付いて行き、個室へ入ると白衣を着た医者が待っていた。
「おかけください。」
その言葉に従い椅子に腰を下ろす。
「結論から申しますと、この後のアルバイトに参加する分には問題はございません。」
少し気になる言い方だが、一先ずは安心した。
「アルバイトには、とはどういう事でしょう?」
「そうですね・・・、確かここ半年ほど体調が優れなく、ナノマシンでも快方に向かわなかったとか。」
「ええ、医者にも掛かり、ジャックの不具合かとも思いそちらも確認してもらいましたが原因は不明でした。もしかして原因が?」
「申し訳が無いのですが、断定することはできませんでした。しかし、その・・・。」
医者が言いよどむほど何かが悪いのだろうか。いや、それならばバイトなんてしていないで治療を勧めるはずだ。
「不治の病とかでしょうか。覚悟はしますので教えていただけませんか?」
「あぁいえ、身体に悪いところは一切ありません。むしろ、どちらかと言うと全体的に平均よりも上の結果が出ております。しかし、一つだけ、脳波にノイズがありました。どうやらこれが原因らしいのですが、体を活性化させているようなのです。つまり、貴方の不調と言うのは身体の限界を超えて好調のため不調に陥っていると、なんとも矛盾した状態のわけです。」
「えっ・・・と、それは大丈夫なのでしょうか・・・?」
「現在は不調も気にならないのですよね?つまり、好調の状態が定着したため現在は問題がない状態になっているのです。」
「なるほど・・・?適応したという事ですかね。」
「そうなります。これから悪化する可能性は低いとは思いますが、可能であればアルバイト終了後に精密な検査を受けていただけると、より確実かと。」
「わかりました、時間は有り余っていますのでその時はよろしくお願いします。」
「はい。では、この後はアルバイトの内容説明になりますので移動を。彼女が案内しますので。」
彼女とはここまで案内してくれた看護師だろう。今気づいたが受付してくれた人だった。
「こちらへどうぞ。・・・城君とはお話しできました?」
「ええ、久しぶりに会いましたが変わっていませんでしたね。」
「それは良かったです。最近体調悪いようでしたが、受付の時楽しそうにしていたので安心しました。」
「あいつもどこか悪いんですか?」
「いえ、それが原因不明で・・・。あなたと同じような症状でしたが、聞いていませんか?」
「全くそんな素振りは見せませんでしたね。」
「そうでしたか。でしたら、気にならなくなり話すのを忘れる程良くなっているのでしょうね。あ、こちらにお入りください。」
「ありがとうございました。」
「では、失礼します。」
そう言い彼女は来た通路を引き返していった。
さて、次は内容説明だったか。体調も問題ないようだし、早く受けてしまおう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます