現在のプロローグ
半年ほど前、日本の裏側で隕石が落ちたと話題になった。
直径20メートル程で、海へ落ちたため被害はそれほど大きくはなかった。しかし、どの国も地球到達の直前まで観測できず、突如として大気圏に現れたため各地はちょっとした騒ぎになった。ここ数十年で宇宙の観測精度はかなり上がっており、場合によっては撃墜まで可能になっていたにも拘らずこのようなことになってしまったためだ。
そんなことがあり未だに、世界中が少しの非日常感に浮かれている中、俺は十数年勤めた会社を休職した。理由は慢性的な体調不良だ。およそ半年ほど前からずっと風邪に似た症状が続き、悪くもならないが良くもならない状態に様々な対策を取ってみたが何一つとして改善につながることはなかった。原因だと考えていたうなじのジャックも完全に同化しており問題はないと言われてしまった。いや、そもそもナノマシンで回復しないことが一番の問題で、つまるところこれは病気の類ではないという事になってしまう。
とは言え、会社の人たちも理解してくれたし、これまでの働きから休職も快く受理してくれたため早く治そうとは思っても焦りはなく、今まで頑張ったのだから少しくらい休めと言う身体からのメッセージと受け取り少しばかりゆっくりしようと決めた。
ある日読書をしていると、VRマシンに連絡があった。大学時代からの友人である城の名前が表示されている。
「はい、はい、もしもし。」
「竜馬?城だけど覚えてるかな。」
「おー久しぶり、大学以来だな。もちろん覚えてるさ。あれだけ色々やったんだから、忘れろって方が難しいよ。」
「そうかな?いや、僕も忘れるのは難しいかもしれない。」
「最近会ってなかったけど、元気だったか?俺は・・・。」
「こっちはそれなりに。そっちはちょっと元気じゃなさそうだけれどね。」
「まぁ、万全ではないだけでそこまでって感じだけどな。それよりどうした?お前がこれに連絡してくるなんて。」
「あぁ、どうせ仕事無くて暇でしょ?なら、久しぶりにゲームでもやらないかなって。僕の親父が関わってるやつなんだけど、今テスター募集してるんだよね。給料も出るしどうかな。」
正直、ありがたい申し出だった。多少の手当ては出るが貯金を食いつぶすつもりだったため、今後を考えると貯えは多いに越したことはない。しかしゲームとは
「懐かしいな、学生の頃は毎日のようにやったっけ。お互い就職してからは離れてたし、久しぶりに良いかもな。ありがたくあやからせてもらうことにするよ。」
「そう言ってくれると僕も嬉しいよ。一人でやっても、誰とも語れないならゲームの魅力は半減しちゃうからね。やっぱああだこうだ言いながらやるのが楽しいんだよ。」
「それは同感だ。テストってことは発売前だろうし、誰彼構わず話すわけにもいかないからな。俺ならゲーム自体パスしそうだ。」
「僕なら一応やりはするけど、義務っぽくなっちゃって純粋には楽しめないだろうなぁ。今回は竜馬が一緒だから退屈しないで済みそうだよ。」
「んで、ジャンルは?お前が勧めるってことはRPGだろうけど、オンラインか?」
「大正解、MMORPG。もう開拓されつくしたジャンルだけど、未だに新規参入があるって凄いよねぇ。今回はリアルさを重視したっぽいけど、確か去年出たやつも同じこと言いながら爆発したからなぁ。」
「あーあったな。なんだっけ、リアルさ重視しすぎて、低スペック機で魔法使おうとしたら脳に負担かかりすぎて強制解除されるんだったか。セーフティついてなきゃ死人が出てただろあれ。」
「まさか1世代下なだけでそこまで深刻なことになるとは思わないよねぇ。ま、最低スペック無視して強行したユーザーが悪いとは思うけど、デバッグしっかりしてなかったのも悪いって回収と販売停止になったからね。ついでに赤字抱えて倒産しちゃったし、やっぱよほど自信がない限りRPGはリスクが大きいよ。」
「けど、そんな中でもお前の親父さんは作ったんだろ?なんだってRPGなんだ?」
「それがさ、国からの依頼らしいんだよね。開発費も機器の費用も全部出るって言ってたよ。」
「国?国がなんでRPGの開発を依頼するんだ・・・新しい国家プロジェクトを落札でもしたのか?」
「流石に詳細までは聞けなかったけど、バック含めても作品の質自体は保証できると思うよ。親父も珍しく張り切ってたし、会社全体で一つのプロジェクトだけに力入れるのは初めてだーって。ボーナスも期待できるしね。」
「国が関わってるならそらそうなるわな。失敗もできないし。」
「そうだね・・・おっと、お昼の休憩時間終わるから、バイトの詳細は後でメールで送っておくよ。それじゃ、またね。」
「おう、またな。」
成り行きでバイトが決まってしまったが、最近は体調も落ち着いているし問題はないだろう。
「それにしてもゲームか・・・。」
勘を取り戻すために久しぶりにプレイしようと、棚から大作RPGを取り出しVRマシンにセットする。大学生の時に発売され、当時のグラフィックと操作性を2世代は進めたと言われ一世を風靡した世界規模で有名なタイトルだ。
「これも城とタイムアタックに挑戦したっけな・・・。」
懐かしみながら首筋のジャックにプラグを挿す。久しぶりの感覚に懐かしさを覚えながら、俺はゲームの世界へ潜っていった。
「やっぱり鈍ってるよなぁ・・・。」
5年程触っていなかったからか思ったより体が動かなく、悔しくなって結局最後までやってしまった。ゲーム内時間を加速させていたにも関わらず、ログアウトしたときにはすでに日が暮れていた。
「お、城から詳細が来てる。」
来週の金曜から10日間の泊まり込みか・・・。本来なら書類選考があったらしいが、親父さんから直接依頼された事になるため俺は不要らしい。着替え等も用意してくれるらしく、当日は身一つで行くだけで良いとは至れり尽くせりだな。バイト代出たら飯でも奢ってやらなきゃ。
「返信しとくか・・・『了解。何から何までありがとうな』っと。さて、当日までまたゲーム漬けの日々を送るとするか・・・!」
結局、俺が寝たのは日が昇ってからだった。
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