#78 俺の任務はどこへ

・・・・・・・・・

 ごほん。えー、本日は曜日です。

 え? 肝心の曜日はどうしたの、って?

 まずは、結論から言わせていただこう。


 結局、土曜日のデートはデートにならなかった。ガックリ。

 なぜかって?


 ……その事件は、俺が映画館の座席についた時に起こった。すごく早めに着いたので、スクリーンには予告編すらまだ流れていない。

 何を話そう、と考えていたら、華音様の方から話しかけてきた。


「あのね、京汰くん。驚かないでね?」

「ん、どしたん?」


 珍しいパンツスタイル。イヤリングが綺麗に揺れる。私服も爆発的に可愛い華音様の口から飛び出した言葉は、俺を爆発的に驚かせるものだった。


「この前ね、体育館の倉庫に行ったら、ゆーまくん、って子に出会ったの」


 一瞬、時間が止まる。

 椅子からずり落ちそうになった。俺今驚きでヤバい顔してそう。


「え?! あいつに?!」

「え、京汰くん、まさか知ってるの?!」


 華音様もすごい驚いている。

 そして直後に、俺は本当に椅子からずり落ちることとなった。


『僕のことだよねっ♡』


 ちょちょちょちょちょ待て待て待て待て待て!

 お前、『二人のことは邪魔しないから♡』って家にいたはずだろ?!

 ずり落ちたせいでガタン、と音を立ててしまった椅子に慌てて座り直す。


「な、なんでおまっ……!」

『華音ちゃんが僕の名前呼んでくれたから飛んで来ちゃった! 参上! な〜んてね! あ、僕ね、京汰の同居人なんで』


 一応ここ映画館だから、僕とは小声で話そうね、とわざわざ忠告してくる。

 華音様は辺りを見回しながら、ちゃんと小声で悠馬に話しかけた。


「え?! ど、どど、同居してるの?!」

『そうだよ~京汰のお世話係なんだよね!』


 ……えーと華音ちゃん。あなたなんでまた視えてるの??!!

 そりゃまぁコイツ隠形は解いてるけどさ! 悠馬……待てよほんと。そんな大事なこと俺に話してないじゃん! 俺のこと好きって言ったくせに!!! お前の好意はそんな軽いもんなのか?!


 そして悠馬は、俺と同居するまでの顛末をまとめて話した。俺そっちのけで話す悠馬とバケモンに全く怖気付かない華音の波長が妙に合うという珍事が発生し、映画も含めて3人での行動となってしまった。これはデートとは言わない。絶対に、言わない。

 そして悠馬はタダでホラー映画を観ていた。バケモンがホラー映画を観て、それなりにビビる光景はマジで面白かったけど。

 でも悠馬がいたから(かどうかは知らないけど)、華音様一度もしがみついてくれなかったじゃんか……。しがみつき要員の任務はどこへ。

 ……2人きりのデート台無しやん。どうしてくれんのよマジで。


『じゃあね、華音ちゃん! 僕いつも京汰と学校にいるから、また会おう』

「うん! 今日は楽しかったよ、じゃあね~」

「じゃ、じゃあな、華音」

「うん、京汰くんもありがとっ、またね!」


 京汰くん“も”って……俺メインキャストのはずだぜ……。初めて“華音”ってちゃんと呼ぶの緊張したのに……。

 軽く傷つきながらも、美しい彼女の後ろ姿を見送る。甘い時間を送るはずだったのになぁっ!


 ったく、前途多難だなぁもう……。

 悠馬のやつめ……とんだサプライズだぜおのれ……。

 華音様のことは、絶対俺が射止めてやるからなぁぁっっ!! 死んでもお前になんか渡さねえから! 憎たらしい式神なんかにっ!!!

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