#76 もうどうしよう!

 贈り物? 何だろう。遠慮する暇もなく、姫は消えてしまった。

 僕がその場に立ち尽くしていると、彼女が再び目を開けた。もう華音ちゃんに戻っているようだ。辺りをキョロキョロする。


「え、ん? なんでここにいるんだろ?」


 そうして目の前を見据えて、「あ」と声をあげた。


『ん?』

「え、ちょっと待って。なぜあなたと私はここにいるの?」


 ……視えてる? え?!


『それって、僕のこと?』

「あなたしかいないでしょ? それに制服じゃないし……一体あなたどこから?」

『ぼ、僕は普通の人には視えちゃいけないやつで……!』


 すると華音は黙って僕を見つめた。かなり驚いているのか、目を見開き、口元に手を当てている。


「う、そ……実は亡くなってるとか……?」


 僕はブンブンと首を横に振る。

 このやりとりにデジャブを感じるのは僕だけなのが、もどかしい。でもどこか嬉しい。


「あ、亡くなってはいないけど、見えちゃいけない? ふーん……。私疲れてるのかなぁ? とりあえず、あなた悪い人ではなさそうだから自己紹介しておくね。私、篠塚華音って言います。あなたは?」

『ゆ、悠馬……』

「ゆーまくん……良い名前だね。よろしくね!」


 こちらに手を差し出す。僕たちは握手をした。

 華音の温度が、僕の手に伝わる。ちょっとドキッとする。

 今まで遠くから彼女を見ていた時とは違う、その時よりも強いドキドキ。

 あぁ、どうしよう。どうにかなっちゃいそうだ。


『よろしくね』


 何とかその5文字を絞り出した所で、昼休みが終わる5分前の予鈴が鳴った。


「あ、行かなくちゃ! じゃあまたね!」

『ちょ、忘れ物!』

「あ! ごめんありがとう~! じゃねっ」


 いつもの華音ちゃんが、そして僕と話せる華音ちゃんが、そこにいた。今もにわかには信じがたい。これを奇跡と呼ばずして、なんと呼べば良いのだろう。




 姫。あなたに何と感謝を申し上げれば良いのだろう。ささやかでも何でもない。身に余るくらいです。



 彼女に再び、僕が“視える”ようにして下さること。



 それが、贈り物だったのですね。

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