#75 あの日のデジャブ
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華音ちゃんが京汰を映画デートに誘った翌日のこと。つまり水曜日である。
この日は、女バスの朝練があった。
彼女は無事、文化祭の次の試合メンバーにも抜擢された。あのツンデレ相澤先生がべた褒めしてたらしい。
ただ、その朝練で彼女は体育館に忘れ物をした。僕は気づいたけれど、教室まで届けることはしない。ただの怪奇現象になってしまうからだ。京汰の学校で七不思議を作ろうとは思ってませんよさすがに。
だからその代わり、昼休みに体育館に行ってみた。昼休みなら彼女が来そうだと思った。
予想通り、忘れ物を探しに彼女は体育館にやってきた。今、ここはどの練習も行っていなくて、がらんとしている。
僕は倉庫の近くにいる。文化祭の日、2人で話した倉庫。きっと気づかないよなぁ、と思いつつ、まるでストーカーのように、彼女を物陰から覗いていた。
彼女は忘れ物を見つけ、安心した顔でそのまま体育館を出ていこうとした。
……が、何を思ったのか、こちらへとやってくる。倉庫にも忘れ物?
彼女は倉庫の中へと入っていく。……あの日、僕たちが話した場所へ。
僕は少し緊張しながら、隠形したままの状態で後ろをついていくと。
「そこにいらっしゃるのは分かっています」
<え?>
後ろを振り返るけど、誰もいない。理科室へ向かう途中のひとコマを思い出す。
「姿をお見せください。あなたと若き陰陽師は、私たちを救ってくださった」
僕はびっくりして隠形を解き、彼女の前へと移動する。
『姫……』
華音に、先祖の姫が
戦国時代にあの妖が喰った姫。妖が消えた後、光の玉となって、意識を失った華音を助けた姫。まだこの世界にいたとは。
彼女は静かに語り始めた。
「
一度言葉を切り、姫は続ける。
「けれども、若き陰陽師とあなたの、彼女に対する想いはとても強かった。私の
華音に憑依していた姫は、泣いていた。自分の無念と、子孫を想う気持ち。その狭間で姫は揺れていた。可哀想な姫君。どれだけ長い間、1人で辛い思いを抱えてきたんだろう。
僕は思わず姫を抱き締めていた。僕の胸元で、姫は静かに締めくくる。
「私は自分の光を華音の中で灯し終わったら、今度こそ
『姫。その想い、しかと受け取りました……』
姫は最後にぎゅっと僕を抱き締めて、ゆっくりと離れた。
「ありがとうございます……では、私からの感謝を込めまして、あなた様にはささやかな贈り物を後ほど……」
そのまま、彼女は目を閉じた。
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