#72 素晴らしき友愛

・・・・・・・・・

 勝さんが発ってから2日くらいして、僕はちょっとした決心を固めた。

 相変わらずソファでぐうたらしている京汰に声をかける。


『京汰』

「ん、どした?」

『僕ね、京汰のこと応援するよ』


 京汰はガバッと身を起こした。「応援って、何のこと?」と顔に書かれている。本当に分かりやすいなぁ。


「え?」

『華音様のこと、まだ好きでしょ?』

「もちろんそうだけど……?」

『実はね……』

「ん?」


 ちょっと迷ったけど、でもやっぱり京汰には言っておかないといけない気がした。あの妖退治でうやむやにしてしまっていたけれど、僕はまだ、華音ちゃんとやりとりできていた理由を京汰に伝えていなかったのだ。本当は僕が京汰に説教されるべきだ、と頭では分かっていた。


『僕、実は京汰に黙って華音様と2人で話したり、膝が痛いの京汰より先に察して、荷物ちょっと軽くしてあげたりしてたんだ。ごめん』


 京汰は目を見開いた。もっと瞬間的に怒るのかなぁと思っていたけれど、京汰は目を見開いただけだ。


「あぁ、だから華音様と顔見知りだったのか。前から知ってたんだな……てか待って、え、あの、悠馬さ、華音様のこと諦めるはずだったんじゃ……」

『いや、顔見知りになった経緯とは、また少し違うんだけれど……とにかく、諦めきれなかった。京汰と毎日登校して、あんなに可愛い女の子見てたら無理だった。でも、でもでも、抜け駆けするつもりは毛頭なくてね?? 僕は遠くから見てるだけでいいと思ってたし、膝の痛みだって気持ち軽くなればいいかなって、思ってただけで……まさかあの子が僕を視れて、しかも話せるなんて全く思ってなかったから、それはほんと、誤算で……』


 京汰は黙ったままだ。マズい、やっぱ怒らせたかな。

 少しして、京汰は口を開いた。


「式神でも同じなんだなぁ」

『え?』

「やっぱあんな美女毎日見てたら、嫌でも恋しちゃうよねぇって」

『京汰……』

「あ、俺怒ったりしないよ? 恋心なんてね、誰にも止められないんだから。きっとそれはさ、人間じゃなくても一緒だろ? でもなぁ、ちょっと心穏やかではいられないよなぁ、悠馬の方がイケメンだしなぁ。ってかそもそも、俺達が彼女を好きであっても、一番大事なのは華音様自身のお気持ちなわけで」


 ハハハ、と笑う京汰は、やっぱり主人に似ていた。ものすごく寛大な心で受け止めて、赦してくれた。僕は約束を破ってしまったというのに。


「まぁでも、これからはまた華音様に悠馬は視えなくなったみたいだし? だからまぁ、悠馬もこのまま恋してていいよ~! 俺様の方が有利だし? チャンスあるし? なーんてね!」


 華音様が俺に振り向けば、の話ですけどぉ~! と言って、1人でケラケラ笑っている。そんな夢物語あるかぁ? あったら世紀末だよなぁ! と、1人でバカを炸裂させている。


『じゃ、じゃあ京汰のことは応援するけど、僕も陰ながら好きでい続けるよ? 華音様のこと。いいんだね?』


 華音ちゃんを今後も好きでいることは僕から宣言するはずだったのに、なぜか京汰に許可を得るスタイルになっていた。まぁいいか。

 京汰はニヤリとして僕を視る。


「いいよ? 今華音様が見えるの俺だけだし!」


 こゆとこはちょっとムカつくけどね。でもそれも含めて、京汰なんだよなぁ。


『京汰、好きっ』

「は?!」

『もぉ~好きっ♡』

「華音様は?」

『華音様と別の意味で好きっ♡』


 ソファに座っている京汰に近づいて、彼の髪をもしゃもしゃと触る。こんな可愛くて良い子でしたか、京汰くんは。


「ちょ、なんだお前」

『京汰はいいやつ!』


 京汰の隣に僕は座って、彼を軽く抱き締めた。あ、これ友愛の証ね?


「や、やめろよもうっ」

『へへっ、たまにはいーじゃん?♡』



 僕が本気で心を許せる友達。

 こういう楽しい日々が、これからも続きますように。

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