#67 ご主人との密談
隠形して外へ出ると、勝さんが話しかけてきた。
京汰が学校にいる時と同じように、意思だけで、ということだ。
(結構大変だったようだな)
<はい>
そう、きっと僕たちの妖退治について直接話したかった、と言うのが、主人が突如帰宅した理由の1つだと思っている。勝さんは京汰の方法を、どう見たのだろうか。
ここで1つ断っておくと、勝さんには常に僕達のことが視える。勝さんが意図した時には、まるでリモート中継のようにして、僕達の行動を視ることができる才能を持っているのだ。
(当然だけど、君が何をしたのか、俺はもちろん知ってるぞ?)
その瞬間、体に緊張が走る。
事故だけど、華音に対して無闇に姿を見せたし、京汰と恋敵になってしまったし、妖との対峙で華音を危険に晒してしまった。
色々な意味で、式神失格だ。
本当なら、消されるべきなのだ。僕は。
でもその宿命を受け入れる覚悟ができないまま、僕は必死で主人に謝る。
<……申し訳ありません>
しかし、しょげる僕を視て、勝さんは驚いたような顔をした。
(いやいや怯えなくていいんだよ! あ、まさか俺が消しちゃうとか思ってる? 約束破っちゃってるよどうしようみたいな? でも俺はね、消すつもりなんかないよ?)
<えっ?>
びっくりする僕に、勝さんは続ける。
(そりゃ、無闇に姿を晒したことは注意したいけどさ。けど消すほどの事案じゃない。消したら京汰が悲しむだろう? それにあいつ、良い経験したけど、かなり勉強不足だったもんなぁ。悠馬いなきゃどうなってたことか……)
そう、勝には全て視えている。遠く離れていても。
<あの、もしかしてあの妖の主は、あなたですか? 京汰に経験を積んでもらうために……>
勝さんは目を見開いた。
(いやいやいや! え?! そんなわけないじゃん! あんな可愛い女の子を危険に晒してまで、俺がそんなことすると思う?!)
<……ですよね。すみません、疑ってしまって>
(あの妖が、京汰の学校に潜んでいたことは想定外だった。誰が操っていたのか、そもそも操る奴がいたのかどうかも、俺にはまだ分からない。でも君たちなら退治できると思ってたよ。あいつも成長しただろ? 少しは。京汰を君に任せて良かったよ)
こんなに息子想いで、式神想いの方がいるなんて……。
僕は心から、主人を尊敬する。
(まぁとにかく、今回は対処できて良かったな! でも京汰はまだまだおバカの度が過ぎるから、教育頼んだぞっ)
僕の背中をさりげなく叩いた目の前の主人は、穏やかに笑っている。目元や鼻筋、顎を見る限り、若かりし頃はもっと端正な顔立ちだったに違いない。その顔はやはり息子とよく似ていて、でも目尻に皺ができ始めていた。
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