#66 僕よりも優しいバケモン

・・・・・・・・・

 京汰は今回の一件を彼なりに反省したようで、文化祭が終わってからは術の練習に励んでいる。まぁ僕があんだけ怒って何もしないほど、京汰は怠惰な男ではない。僕のガチギレは割と効力を発揮したようだ。……持続性は定かではないが。


 心を入れ替えた(であろう)京汰は、たまにお友達の小さな妖を呼んでは、練習相手や話し相手になってもらっているみたいで、帰宅しても割と賑やかだ。妖にも良い奴と悪い奴ってのがいて、京汰とお友達なのはもちろん、良い奴の方。こんな大バカと遊んでくれるのだから、とてつもなく心の綺麗な素晴らしい妖、と言った方が良い気もしてくる。今彼が必死になっているのは、仲間を守るための術だ。さすがに攻撃の術をお友達に仕掛けるわけにはいかない。

 守りの術が発動すると妖はぼんやりとした膜に包まれるのだが、現在彼らは中途半端にしか包まれていない。……きっとこういう所に、普段の家事スキルの酷さが表れてくるのだろう。餃子の包み方が下手すぎて中の餡が焦げるとか、洗濯物を綺麗に畳まないせいで収納に入らないとか。まずこちらを直した方が良いのでは、と結構本気で思うのだが、一応黙っておいといてあげよう。


「これで合ってる?」

《いや、呪が一部抜けてたよ。だから中途半端になっちゃってる》

「まぁじか」

《まぁじだ》

「じゃあ一旦解きますね」


 ——100分後。


《こんなこと言いたくないんだけど、京汰くんは僕をいつまで拘束する気なんじゃい》

「術誌通りにやってるんだけどな……」

《一旦頭冷やそう京汰くん。また明日来るね》


 お友達よ、きっと心の中ではブチギレてるだろうに……明日も来てくれるなんて、どこまで優しいんだ君は……。京汰のためにそこまで……。


「分かった。長い時間ごめんね! また明日」


 京汰が手早く術誌を閉じてその場を後にすると、妖の叫び声が聞こえてきた。さすがにちょっと怒気を含んでいる。


《これ一旦解いて! じゃないと動けないんだけど! ねえ!!!》

「ああああああああ!! ごめんなさいいいいいい」


 こうして彼は、どこまでも優しい妖の力を借りて、何とか術を覚えることができたようだ。

 良かったね、僕よりも優しいバケモンがいて。



 そんな折、2ヶ月ぶりに主人が帰宅した。

 主人とはもちろん、京汰の父、勝さんである。

 急に鍵でドアを開ける音がして、ただいま~! と勝が入ってきた。ソファに寝転がっていた京汰は、文字通り飛び上がった。一方の勝さんは、「ドッキリ大成功」とでもいうようにニヤニヤしている。


「いや待てよ! 帰ってくるなら連絡くらいしろよ!」

「だっていつ帰るかなんて急に決まるんだから、仕方ないだろぉ」

「……いつまでいるんだ」

「次の案件が来るまで、ね?」

「宿泊料取っていいか」

「いやここ俺ん家!!!」


 主人がなぜ、連絡もなく急に帰ってきたのか。

 僕はちょっと察している。

 大きな荷物を置くと、主人は早速僕を見て、外へ出るように促した。やっぱりね。


「ちょっと近所散歩してくる~」

「……いってら」


 荷物を置くのもそこそこに出かけていく主人に、完全塩対応の京汰。

 全く、父親の久々の帰宅が嬉しいくせに。京汰のツンデレは治りそうにない。

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