#65 俺は何歳なんだ

・・・・・・・・・

 帰宅するなり、悠馬はお説教モードだ。

 なんだよ〜、俺結構頑張ったじゃんか! 分かんないなりに攻撃しかけて、ノー勉なりに人命救助して。俺聞こえてたんだぞ? 悠馬が『すご』って言ったの。式神に褒められるレベルで頑張ったってことじゃん! マジで何がいけないのさ!

 ……と、思っていた。具体的に指摘されるまでは。

 あまりに注意することが多いせいか、悠馬はいつも以上に饒舌で、可能ならスルーしたいのだけれど、今回ばかりは俺の力不足も認めなければならない。


 でもね、皆川先輩の正体に気づけなんて、「ウォー○ーをさがせ」とか「ミッ○!」の序盤でリタイアしていた俺ができるわけないでしょ。小さないとこがこの前持ってた、「クジラちゃんのまちがいさがしブック」も3ページ目で挫折した奴である。対象年齢3歳以上の商品で、挫折したのである。「きょーたにいちゃん、たいしょうねんれいよりとししたなんじゃない?」とかわいい笑顔したいとこにナチュラルにディスられ、心を抉られたことのある人間なのである。その力で皆川先輩の正体を暴くなんて、俺には1000年早い。


 ……いや、早くてもやれってことですよね。分かってますよごめんなさいね。


「すみません……」

『それに!』


 反省した瞬間に次の攻撃。本当に容赦ないな。全身震えちゃったよ。


「ま、まだありますか……」

『あるよばかもーーーーーん!!! 何なんだよっあの術は!! どの術誌にも載ってない新種の技を、あの超危険な局面で急に繰り出すし、失敗したら京汰も死んでたよ?!』


 あーあれか……。

 だって呪が分かんなかったんだもん。なのに『やるんだよ! 窮地に立たされればねぇ、人間だって式神だってバケモンだって何でもできるんだよ! とにかく守って!』って言ったの悠馬じゃんか。それ言われたら、素直な京汰くんは火事場のバカ力の要領でうまくいくんじゃないかと信じて頑張っちゃいますよ……。

 でも悠馬の言う通りで、あれ失敗したら確実に死んでた。悠馬の繰り出す業火と、皆川先輩の妖力をもろに浴びていたはずだ。そして俺が死んでいたら、あの愛しの華音様も巻き添えで死んでいたはずなのである。そんなことになったら、俺の遺体は華音様の仲良しメンツにその場で焼かれるだろうな。それこそ悠馬が繰り出すような業火で焼かれそう。

 焼かれなかったのは悠馬のお陰である。……認めなきゃいけないのが辛い。

 目の前の式神は、完璧な呆れ顔を見せている。


『もはやあそこで新技出せるのはバカ通り越して天才だけど、でもほんっと危ないから! まずは基本を勉強して、お願いだから! あんなんされたら僕も守りきれない! 責任持てない! 無理!』


 褒めてんだか貶してんだか……。

 でも俺を守ろうとしてくれてたことだけは、伝わってきました。こんなバカを全力で守ろうとしてくれて、マジでありがとうございます。

 相変わらず台詞の端々が憎たらしいけど、今回は謝るしかありません。


 悠馬がいなければ、俺と華音様は確実に死んでたから。

 そこは本気で感謝してます。ありがとう。

 俺は思いっきり頭を下げる。

 ……ガンッ!!

 やべえ、座ったままなの忘れてた。頭と机の距離感見失ってた。


『そういう所も直して……』


 俺を見る目が死にかけている悠馬は、ネジが100本くらい抜けている旦那にため息をつく妻のよう。

 俺は強打した額を手で押さえつつ、起立して本気の反省の弁を口にした。


「申し訳ございませんでしたっ! 出直しますっ!」

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