#68 僕達は中学生?

 僕は主人の優しい顔を見て頷く。主人からのご下命は、きちんと守っていきます。京汰を立派に教育しますからね。


<はい。……それにしても、京汰はモテますね>


 自分でもびっくりな一言を発してしまった。なぜ僕は今、京汰の恋バナに持っていこうとしている?!

 ただ僕は、否応なしに気づいていた。

 華音は前よりも強く、京汰に想いを寄せ始めている。京汰は妖の存在にも気づかないくらい鈍感だから、もちろん彼女の心にも気づいていない。気づく兆しも見えてない。でも、僕には分かる。分かってしまう。それが非常にもどかしい。

 ……たとえもう、彼女に僕が視えないとしても、分かってしまうのだ。


 すると何を思ったのか、勝さんは途端にニヤリとした。


(さすが俺の息子だよなぁ。そう思わないか?)


 僕はずっこけそうになった。マジかそう来るのか。

 この父子、笑顔だけじゃなくて、自画自賛するとこまでよく似ている。

 僕もニヤリとしてみせた。今の僕達は、悪巧みしている中学生みたいな顔をしているだろう。


<……はい、そう思います>

(だろ? それに、君達が恋敵としてやりあってたのも、なかなか見応えがあったんだよな。たまにしか視なかったけど、ドラマみたいで面白いよ。テ○ハみたい)


 げっ。テレビの視聴者感覚で僕たちの恋路を見てたとは……。口が裂けても言えないが、僕は一瞬主人に引いた。引きました。はい。


<そ、そうですか>

(うん! だからさ)


 一旦言葉を区切って、主人は再びニヤリとした。この方、一体何を考えていらっしゃるのだろう。


(悠馬も恋愛解禁な。京汰と2人で、恋の楽しさも、苦しさも経験すると良いよ)

<し、しかし、彼女にはもう僕は……>

(もしまた視えたら、の話だし、君たちも心変わりすることはあるだろ? とにかく解禁だ。お前も京汰の世話ばっかじゃ疲れるだろう。少しくらいはこの世界を楽しめ)


 なんという爆弾発言。

 恋、していいのですね? 本気にしちゃいますよ? 楽しんじゃいますよ?


<本当に、いいのですか>

(何だよ、もう彼女に恋しちゃってるっていうのに今更。いいんだよ、京汰を命懸けで守った褒美だ。恋心は誰にも止められないからな。主君にも無理だ)


 何と寛大なお方。

 京汰こそ、最終的に華音を守った張本人だけど。でも僕のことも認めて下さったことが、何よりも嬉しい。



 じゃあ僕は。



 今後も、彼女を想い続けます。

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