#62 磔案件

「ちょっと藤井何やってんの?!」

「華音のことみんな探してたんだよ! あんた抜け駆けしようとしたでしょ!!」

「ほら華音、よりによって告白タイムになんで消えるのよ~もう終わっちゃったよ~」


 もう本当に怖い。華音様の仲間も、皆川先輩と一緒に記憶から消えちゃえば良かったのに。

 そんな不謹慎なことを思いつつ、俺は慌てて言い訳にもならない言い訳を喋る。


「あ、いや、そのっ、屋上に……」


 すると、1人が食い気味に突っかかってきた。顔が! 顔が怖いって! そんなんじゃモテな……


「はぁ屋上?! なんで2人でそんなとこいるわけ?! 藤井、あんた勝手に告ったね?!」


 華音様のお友達の圧が強すぎる。喋ってない子たちから放たれる圧も強すぎる。妖よりヤバい奴なんじゃないかと一瞬思う。


「こっ、告ってないし! てかそもそもそんなことしてないし!!! 俺が先にいて、後から来ただけでっ」

「ほんとなの? 華音。何も変なことされてないよね?!」


 変なこと……。

 マズい。俺抱き締めてたじゃん。でもあれは彼女の命がかかってて……!! もし抱き締められてたとか言われたらどうしよう?! そうなったらもう、俺は十中八九はりつけの刑になるよ。アーメン。

 華音様が口を開く。終わった。


「なんかね、外の空気吸おうとして屋上に出たんだけど、ちょっとクラっとしちゃって。そしたらたまたま先にいた藤井くんが助けてくれたの。だから変なことどころか、恩人」


 なんか半分ホントで半分ウソだし結構中途半端な言い方だけど、咄嗟に華音様は言い訳してくれた。

 まぁ彼女自身、何起こったか分かってないもんな。

 でも救われた……良かった……。磔にならなくて済みそうだ。

 するとお友達の顔が少しマイルドになった。うん、そっちの顔の方がまだ可愛い。


「何だ。あんた思ったよりいい奴じゃん。先に言えばいいのに」

「いや、だからお前の圧がっ……」

「は? 圧?」


 また顔が怖くなってる!!


「いやすみません何でもないです」

「何もう。華音いこ~」


 お友達怖えよ。先に言うことなんか許さねぇみたいな雰囲気出してたじゃん……怖くて泣きそう。足震える。

 華音様は「うん」と友達に答え、去っていこうとした。

 だが、その前にもう一度俺の元に駆け寄る。


「京汰くん」

「ん?」

「京汰くんの隣だと、心地よく眠れるね」


 それだけ早口で言って、ニコッと笑って今度こそ去っていった。

 ちょっと待って。眠ってたことになってるのマジで可愛いんだけど…………!!!

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