#61 告白タイムの主役

 俺達はホールに着いた。悠馬もついてきている。

 告白タイムは始まっているようだが……。


「キャーーーーっっ♡」

「かっこいいいいいいい♡♡」


 女子集団が歓声をあげた。え、皆川先輩いるの?!


 彼女たちの視線の先を追ったが、そこに皆川先輩はいなかった。

 あの女子集団の顔ぶれを見る限り、体育館で昨日見た皆川先輩ファンに違いないのに。

 その代わり、まぁ理解はできるけど驚きを隠せない事態が起こっていた。


「相澤先生だ……♡」


 華音様まで心なしかほわーんとした顔つき。

 なんと、男バスの顧問が今まで以上にモテている。

 文化祭実行委員のアナウンスも、しどろもどろになっている。


「え、えっと、これは初めての事態です!!! 先生が告白タイムの主役、ですっっ!!」


 なんと相澤先生にここで告白する女子生徒がいるとか。

 先生はクールな雰囲気を醸し出すイケメンで、かつイケボの持ち主だ。普段は寡黙で表情の動きもあまりないが、生徒が何か良いことをしたり、成績が上がったりすると全力で褒めちぎる。

 そう、このツンデレこそが女子を虜にするのだ。非常に分かりやすい手口なのだが、分かっていても落ちるものらしいのだ。

 前までは生徒と年の差が20くらい離れていることもあり、コアなファンがいただけだったが、今は元皆川先輩ファンのほぼ全員が相澤先生ファンに転身しているようである。

 そーいや先生バツイチなんだよな……だから告白自体の拒否はしないのか?

 いやいや、ここでOKしたらそれはそれで大問題だよ。教育委員会に通告される。


 てか、華音様、皆川先輩がいた時は相澤先生のことなんか気にも留めてなさそうだったのに。

 俺と悠馬が妖退治したことで軽く時空が歪んだのか。

 いや、これが正常なのかもしれない。皆川先輩がいた時の方が歪んでたんだろう。


<結構長い間時空歪んでたことになるね>


 隠形した悠馬が、俺の思考を読んで話しかける。


(それな……)


 今ではもう、俺と悠馬以外の全員、皆川先輩に関する記憶を失っていたのだった。


 
結論から言うと、相澤先生は女子数名の告白は全て「ごめんな」と断った。まぁ当たり前っちゃ当たり前だ。

 でも、思春期ということもあって普通以上に傷つくであろう、繊細な彼女たちをそっと気遣うような言動がサラリとできるあたりは、やっぱり大人の男性だよなぁ紳士だなぁと思う。それだからモテちゃうんだよ。無限ループじゃねえか。

 彼は、勇気を振り絞った女子生徒に優しく語りかける。



「好きになってくれたんだな、ありがとう。意外だったし俺嬉しいわ! でもな、確かに俺バツイチで今フリーっちゃフリーだけど、やっぱり大事な生徒だから。ご家族だっているんだし、今は気持ちを受けとるので精一杯だ。俺と年もすごい離れてるしな。今は恋が実らなくても、それはきっと君たちの意味ある経験の1つになる」



 
男らしさを出しながらも、教師の立場を忘れない回答。いやぁ脱帽。勉強になります。こんな台詞、言う機会ないですけど。


 そうして先生は、涙する彼女たちの頭を順番に、ぽんぽんと撫でた。


 ……ある意味皆川先輩より完璧な気がします。



 こうして告白タイムは感動の渦に包まれて(男子は相澤先生の人気にただビビって)終わった。


 いやぁ、女子生徒も頭ぽんぽんしてもらって良かったねぇ……。


 感心しきっていると、めっちゃ近くで突然怒鳴られた。

 え、なに?!

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