#60 秋の夕暮れの夢

・・・・・・・・・

 マジか、華音様、悠馬のこと視えないし覚えてもないのか……。

 悠馬は落胆してしまったみたいで、いつの間にか隠形していた。あいつの心情を思うと、俺もやるせない気持ちになる。

 ……ん、じゃあ、皆川先輩のことは?


「ねぇ、ここに来てからのこと、少しでも覚えてる?」

「え……」


 華音様はしばしの間、黙り込む。

 ……思ったより重症だな。キーワード出したら思い出すだろうか?

 なるべく鮮明に思い出せるように、あえて悠馬の名前も出してみる。


「ここには最初、俺と悠馬と皆川先輩がいて……」


 華音様は少し笑った。顔色はすっかり良くなっている。


「また夢の話の続き?」

「えっ?」

「だって、またゆうまくんとか言ってるし、さらに新しい人出てきたし」

「み、皆川先輩のこと覚えてない……?! あのイケメンの!」

「京汰くんの夢には色んな人がいたんだろうけど、私の夢には京汰くんしか出てこなかったよ」


 え、待って待って。

 皆川先輩のことも記憶にない?! てか俺が夢に出てきた?! それは新聞の一面案件。

 え、何言ってるのマジで?!


「俺が、出てきたの?」


 華音様は不思議そうな顔をして話し始める。


「うん。不思議な夢でね、なんか暴風雨に曝されて私ずぶ濡れで意識飛んでたんだけど、京汰くんが見つけてくれて、あったかいお家まで運んでくれたとこで目が覚めたら、目の前に京汰くんいて、すんごいびっくりしたの。それになんかね、膝の痛みが綺麗さっぱりなくなってるんだよね、今までの痛みは何だったんだか」


 んーと、察するに、多分暴風雨が皆川先輩で、お家が俺の霊力? 膝の痛みまで消えたのは、妖の爪痕を治癒したからなのか。

 記憶が結構混乱してるのかな、と思ったけど、意識飛んでいた割には俺のことはしっかり覚えている。

 ただ、悠馬や皆川先輩の名前は見事に抜け落ちている。

 悠馬はともかく、もしかして、皆川先輩の存在自体が華音様から消えた……?


「でもなんで私たち、こんなとこで夢なんか見てたんだろうね? 告白タイムやってるのに屋上に来るなんて」


 文化祭の記憶もあるのか。でも城田に追いかけ回された記憶は消えているらしい。

 そうなったら疑問は1つだ。

 みんなは皆川先輩を覚えているのだろうか?


「ごめん、ちょっと俺、行ってくるわ」


 俺は屋上のドアへと向かおうとする。

 そうしたら、彼女が俺の腕を掴んだ。どっきん。


「ん?」

「どこ行くの?」

「ホールだけど……」

「告白タイムの場所じゃん! 私も行くよ!」


 ぎゃああ待って心臓が潰れそうだよ。

 俺を真っ直ぐにみつめる瞳。揺れる柔らかな髪。やっぱり綺麗な制服がよく似合う。記憶が曖昧でも、可愛さは健在だ。

 良かった、この手で彼女の美しさを守ることができて。


「分かった、行こう」

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