#50 屋上で神話は生まれる
俺は思わず、皆川先輩をしばらく見つめてしまった。爆弾発言にも驚いたし、この至近距離で見るお顔の美しさにも改めて驚いている。彫刻じゃん。うん、どこから撮ってもベストポジション。映えないアングルがないよ。
少しの間、皆川先輩もほぼ真顔で俺を見てたけれど、耐えきれなくなったのか、ついにプハッと吹き出した。
「なーんてね! 俺もライバル多そうだなぁ怖いなぁって思って、ここに来ちゃったんだよ」
え、何それ?! イケメン爆弾発言の後に、こんな可愛い言い方しちゃうの?! 悠馬より可愛くない?! ずるくない?!
「そ、そうなんですか……?!」
「なぁんでそんな驚くんだよぉ」
くしゃっとした笑顔は、さっきとは別の魅力を引き出す。なんなんだこのイケメンは。俺でも惚れちまうじゃねえか。告白の相手、先輩にしてもいいっすか。
「だって皆川先輩くらいのレベルなら、ライバルなんて全員余裕で蹴散らして、自分が好きな人とかモノは全て簡単に手に入れそうだしっ」
「んなわけないだろ~っ! 本気で好きな人は、まだ手に入れたことないよ俺」
それは意外だ。てか意味深だな。この世の全ての美を掌握してきたような風貌しかしてないじゃんか。
皆川先輩が本気で好きな人……どんだけ美女なんだろう。クレオパトラとか好きなのかなこの先輩は。
ちょっと間が空いたので再び沈黙を続けていると、屋上のドアが開いた。
「と、とにかく今ちょっと外の空気吸いたいのね」
「いやちょっと待とうよ、こっち早く来なくちゃ、みんな待ってるんだから」
「待てない無理ごめん城田くんっ」
……は?! 城田?!
城田らしき人物を振り切ってドアから出てきたのは、1年生で1番の美女。
……って華音様じゃん!!!
「どうした?! 城田に何かされた?!」
俺は思わず華音様に駆け寄る。皆川先輩並みに美しいこの女子生徒は、俺を見て困惑した顔で言った。
「きょ、京汰くん! んーん違うのっ、告白タイムやるからホールに早く来なって城田くんに言われたんだけど、何となく気が向かなくて、屋上に行こうとしたら城田くんついてきて……」
「それは立派なストーカーだね、後で俺殴っとくわ」
「そ、そこまでしなくてもいいよ」
「いやあいつにはいつか制裁を」
<テニスバカめ……>
ほれ、悠馬も怒ってるやん。
制裁とかいいから別に!! と慌てて制する華音様は、途端に動きを止めた。
「やまっ……皆川先輩! なんでここに?!」
華音様の頬がほんのりと紅潮しているのは、屋上までの階段を上ってきたから?
それとも……皆川先輩を見つけたから?
「あ、華音ちゃん!」
皆川先輩は満面の笑みを向け、軽く手を振る。俺に向けていた、くしゃっとした笑顔とはまた別のもの。一体いくつの笑顔を持っているのあなたは。
こんなん同じ場にいたら、俺の立ち位置1ミリもないやん。
華音様は歩いて皆川先輩に近づき、「試合お疲れ様でした! あのシュートすごい良かったです!」「ありがとう、華音ちゃんも次の試合出れるといいね!」などと楽しそうに話している。……悔しいが、この美男美女はとてもものすごく素晴らしいくらいに画になる。神話とかに出てきそう。教会のステンドグラスに描かれていそう。ルーブル美術館に展示されていそう。
俺なんかきっと、道端の似顔絵屋さんに描いてもらえるだけで精一杯だろうというのに。
俺はしばらくセンチメンタルな気分になっていたのだが、どうも隣の奴の様子がおかしい。
悠馬の顔がさっきから、少しずつ険しくなってきているのだ。般若まであと数メートル、って感じの形相になりつつある。
俺何かした?…………いや、ここまで
え、あ、じゃあ、実は四角関係だからとかそういうこと? 悠馬と俺と皆川先輩がもしかして華音様のこと好きで、的な? でも悠馬諦めてくれたんじゃなくて? てか本当に顔怖すぎない?!
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