#51 悠馬くんが怖い

『早く彼女から離れろ』


 急に聞き慣れたものとは程遠い、ものすごく怖い声が隣から聞こえて、俺はものすごく驚いた。少し飛びずさってしまったほどだ。

 よく見ると、悠馬が……隠形を解いている……?! 形相はもう、ほぼほぼ般若である。

“彼女から”ってことは、華音様から、ってことで、今華音様の近くにいるのは皆川先輩……。ん、皆川先輩に、悠馬はめっちゃキレてるってことで合ってます?


 俺よりも数秒早く、先輩は事態を読み取ったらしい。

 悠馬の目線の先にいる皆川先輩は、こちらを軽く睨んだだけで、華音様から離れようとしない。


『聞こえないのか。早く彼女から離れろって言ってんだよお前』


 いつもの悠馬とは全然違う、新しい何かが憑依ひょういしたような、荒々しい言葉遣い。俺でも身がすくみそうなくらいに怖い。

 てか待って、なんで悠馬はわざわざ隠形を解いて皆川先輩に怒ってるの? そんな簡単に姿を晒していいの?

 ただの嫉妬にしては何かスケールが違う気しかしない……。てか嫉妬してる時点で諦めてなかったんかい、ってなるんだけど……。


「ゆ、ゆうまくん? どうしたの? 先輩は何も悪いことしてないよ?」

『いいから華音ちゃん、離れて。僕の言うことを聞いて欲しい』


 ん、ん?!

 え、もっと待って、ちょっと頭整理する時間が欲しいんですけど?! 待って待って今俺結構割とすごくかなりプチパニック。いや、プチ通り越した。ノーマルパニック。いや、ノーマルも通過して大パニック。


 なんで、なんで華音様は悠馬のことが視えてるの?! てかなんで悠馬の名前知ってるの?! なんで悠馬もそれに驚かない?! なんで普通に会話してるの?! てかその前に、なんで皆川先輩も悠馬が視えるわけ?! 隠形解いて顕現したら視える感じ?! 華音様も皆川先輩もその才能あるの?! え、視えてるから睨んだんだよね?!


「ゆうまくん、急すぎない? てかなんで京汰くんの隣に?」

『今その話をしてる時間はないんだ。悪いけど、早く離れて欲しい』

「でも……なんでそんなに怒ってるのかだけでも……」


 うん、俺も華音様と全く同じ意見。理由教えて理由を。

 てか俺と悠馬が隣にいることもバレちまったか。さて、どうするか。

 あまりの急展開にさすがに追い付くことができなくて、“なんで”、と“ハテナ”が同時多発してる。


『華音ちゃん、いいから』

「でも」

『いいから! 早くしろ!』


 ひやあああああっ。怖すぎる。悠馬の怒号がこんなに怖いとは。

 華音様も悠馬の気迫に押されて、逆に動けないでいる。可憐な女の子にその剣幕で言ったらヤバいって。

 でもそんなことは悠馬が一番分かっているはずだ。好きな子にあんな言葉遣いするのは、異常事態でもない限りあり得ない。

 でも、何が異常事態なのか俺にはさっぱり分からないのである。弱った。


 とにかく誰か説明してくれ! どういうことなんだよ一体??!!

 本気で意味が分からないんだけど!!!!!

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