#32 私そんな良い子じゃないの

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 文化祭が間近に迫っている。バスケ部は文化祭の2日間、招待試合を行う。相手校は格下だ。だいたい、こういう招待試合は呼んだ方が勝つように出来ている。
けれど、気を抜いてはいけない。私は一応1年で唯一のスタメンなのだ。エースになりたいから、今頭角を現して、もっと目をかけてもらえるようにしないといけない。バスケを本格的に始めたのは高校に入ってからで、だからバスケ歴はまだ1年もなくて。元々多少自信のあった身体能力だけで、このポジションを得てしまった。だからこそ、ちゃんと頑張ってる姿を見せた上で、エースとして認めてもらわなくちゃいけない。

 コーチとか、先輩とか、あの人にも。とにかく今は注目してもらいたい。


 
一応膝には気を遣っていたけど、正直我慢していた。女子って怖いから、他人の欠点を見つければ集中攻撃してくる。私の経歴を考えれば尚更ってことくらい、よーく分かってる。実際同期にバスケ歴10年の子がいて。でも彼女はスタメン入りしなかった。どう思われてるか分からない。……一応、学力では彼女に勝ってるから、弱みに付け込まれる要素はそう多くはないと思ってる。だからこそ膝の痛みは今、私にとって最大の欠点だ。レギュラーから引きずり下ろされたらたまったもんじゃない。




 だから、あの子の申し出には心底感謝している。

 
文化祭準備の日。ハロウィンの翌日。

 あの時、実は気付いていた。私が階段を降りる時、すぐ後ろで駆け下りる音がすることに。些細な動きだから気付かれないだろう、でも気付いてくれるかな、って矛盾した思いで、膝をさすった。なんて私はセコいんだろうか。こうすれば、男の子に助けてもらえる。そう思っていたのは事実。自分の腹黒さに思わず萎える。

 でもあの時、実際痛みは強くなっていた。気付かれた時は驚いた。と同時に、嬉しかった。……気づいてくれたのが彼だったから、余計にね。



 活発で、いっつも明るい男子。自分からバカやっちゃう男子。この前の中間試験の結果が出た時なんか、よく分かんないでっかい独り言言って、みんなにドン引きされてた男子。私も正直ちょっと引いた、と言うか、大丈夫かなこの子? って思った。でもそんな大胆な失敗をできちゃう彼は可愛げがある。実際、みんなにいつでも愛されている。


 彼の思ったことを何でも言える所とか、進んでおバカになれちゃう所が、ちょっぴり……いや、結構羨ましい。この前の私みたいに、さりげなく気付いてもらおうとかしない。本当の気持ちを隠そうとしない。ちょっと人を試したりするような真似をしない。

 私のことを男子陣はいつも過大評価する。だから私は時々、振る舞いに困る。何を求められているのか分からなくなる。みんなが思うほど、そんな純粋な子じゃないのに。みんなは私の、何を見てるんだろう?

 それに引き換え、あの子は私みたいに卑屈じゃなくて、本当にまっすぐだ。あの子は私にないものを持っている。




「今から練習始めるよー、まずランニングから、はいスタート!」



 きっと今だって見られてる。本当に私がスタメンにふさわしいか、顧問や先輩が目を光らせているはずだ。本番まで絶対に気は抜けない。


 
彼の申し出のお陰で、模擬店の準備で膝を酷使する前に休めたから、今は随分楽になった。


 
文化祭終わったら、改めてお礼言わなくちゃな。



 華音は一度深く深呼吸をし、体育館の床を蹴った。

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