#31 迷える式神
この恋心はとどまることを知らないと思うけれど、暴走はしないと信じている。
だって、僕はちゃんと覚えているから。忘れたりはしない。
忘れたら、文字通り消されてしまうからね。
だから、忘れない。
自分の命を守るために。せっかく生まれ落ちたんだ。勝さんが許してくれる限り、僕は生きていたいんだよなぁ。
頂いた名前に恥じぬよう、生きること。
理、とは。
主人の言いつけを絶対に守ること。人間を傷つけないこと。殺めないこと。
無闇に自分の姿を晒さないこと。人間より目立たないこと。
言われたことはちゃんと覚えている。忘れたりはしない。
でも1つ、疑問があるんですよ。
まだほんの少ししか生きていないけど、分からないことが出てきてしまって。
傷つけない、とは、どういうことでしょうか。
身体的に傷つけてはいけないのは、もちろん分かります。
けれど、精神的な傷は、含まれますか。
人間の心さえも、痛めつけたら僕は。
よりによって、1番近くにいる人の心を傷つけてしまったならば、
僕、は。
消されてしまうのですか。
京汰と恋敵になることで、僕が華音ちゃんに想いを寄せることで、京汰は精神的に傷ついてしまうんだろうか。
なんで今更恋敵なんて、って思うのかな。
式神如きが何様だ、って思うのかな。
京汰の心がうまく読めなくてね。……なんせあの人ツンデレですから。思ったことを口にするようでいて、大事なことは奥にしまってる気がするんだ。
もしかして、僕が消されるのは時間の問題なのかなぁ。
京汰といるのは楽しい。京汰とこれからもいたい。
でも同じくらい、華音ちゃんのそばにもいてみたい。
もはや自分でもよく分からないのです。
勝さんに消されるのが怖いのか、京汰を傷つけてしまいそうなことが怖いのか、
それとも、
この焦がれそうな想いに歯止めをかけられなくなりそうな自分が、怖いのか。
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