#30 おしゃべり機関銃と僕
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「そんでさそんでさっ!!」
スーパーでの買い物もそこそこに、京汰は帰宅するなり大声で弾丸のように話し始めた。帰宅途中の意思のみの会話でも、京汰はずーーーーっと喋りっぱなしだ。いつも僕のことをお節介だと言って邪険にするのに、今日は自分の話を存分に聞いてもらいたいらしい。人間というのはこんなに虫のいい奴ばかりだろうか。つい数日前まで貝のようだったくせして。でもまあ、これだけ素直なのも可愛いと褒めた方がいいんだろうか。
「ねーえ聞いてる? いつも口挟んでくるのに今日やけに静かじゃんか! そんな人外のモノみたいな顔してジャガイモの芽とってんじゃねーよ、あ、お前もともと人外か、それでさ、俺ね、華音様のことどうしても手伝いたくって……」
僕だって口を挟みたい。さっきの人外ってとこに関して。でも突っ込む前に話が進行していくのである。ノンストップかつハイスピードなのだ。今だってツッコミたいよ、君は女子かって。
京汰はすっかり舞い上がっている。ちゃっかり華音様の手助けに成功した彼を見て、他の男子が一斉に問い詰めたが、彼は「ちょっとな」とニヤニヤするばかり。教室に戻ってきた僕にもさりげなくピースしてくる始末であった。これはやんごとなき事が起こったな、と僕は確信し、その確信が当たっていたと冷静に悟り、現在に至る。
「それでな、俺声かけたんだよ、そしたらまあ色々あって華音様が俺にダンボール預けてくれて!」
咄嗟にジャガイモと包丁をまな板に置き、僕は慌てて両腕でTの字を作った。
『タイムターイム! ちょっと待って、順番にツッコミさせて。まず、お前もともと人外か、っていうセリフはどうかと思います。次に、京汰、ノンストップかつハイスピードで喋ってるから僕が口を挟もうにも挟めない。君は女子か。あと最後に、色々あって、ってどゆこと? さっきから華音様の笑顔の感じとか髪がどんな香りだったかとかはたくさん詳しく話してるのに、そこだけ曖昧なの気になるんだけど』
「俺そんな喋ってたか、マジか。だって人外なの事実やん、それから多分俺女子だわ、あと色々ってのは色々諸事情あって話せないんよ〜」
『人外なの事実って……まあ事実だけどぞんざいに扱われてる気がする……あと京汰くん女子とか気持ち悪い……あとあと諸事情って何、ここまで話したなら話してよ』
「ぞんざいではないって! 悠馬くん、愛してるよ、大好き♡ あと気持ち悪いとかひどくなーい? あとあと諸事情は諸事情だから、華音様と俺だけの秘密だから話せないっ」
『色々気持ち悪いよ……華音様と2人だけの秘密ってのも気持ち悪いよ……どうせ大したことでもないだろうに……』
「大したことなくないし! じゃあ何だお前、あの大事で可憐な華音様がお膝を痛めてらっしゃっても大したことじゃねえっていうのかよ! 思いっきり大したことだろーが、世紀の大事件だろーが! 俺だけがその大事件を知って華音様を救ったんだぞ! 俺超イケメンだったんだぞ! 最後にありがと、京汰くん、とか言われて! もーう泣いちゃう倒れちゃう!」
すごい。何回か教えてよーって言ってカマかけてみただけで、こんなに滑らかに口滑らせてる。なんてこった。
『膝痛めてたの、華音様と京汰だけの秘密だったんじゃ……』
すると、京汰の顔が豹変した。すごい、口あんぐりってこういうこと言うんだなぁ。
「え?…………ああああああっっっっ!!! 俺なんてバカなの?! 今すんなり喋ったよな?! 2人だけの秘密を! うわどうしよう俺こんなんやらかして処刑レベルだよ……俺にこの話引き出させたお前も悪いけど俺もバカだ、ああ悠馬さっきの忘れてくれ、一生のお願いだよ、さもなければ俺は処刑レベルだ、自分に呪詛かけて人生終えるしか……」
『早まるなってば! まだ君は若い、可能性ならいくらでもある、今のことは忘れるよ、僕が悪いってとこは異議あるけど! だから簡単に処刑とか言わないの、命を粗末にしない! 君は一応陰陽師の家系でしょーが! 言葉を選びなさいっ! 京汰くんはいい子なんだからわかるよねっ!』
「ううっ、うん……忘れてね悠馬……! 俺絶対華音様ゲットしたいもん……!」
ああ、なんておバカ。世紀末のおバカ。バカ正直って言葉作った人すごいよ。見事に体現してる人がここにいるよ。
一応京汰を慰めている僕だけど、彼を全力応援しているわけではない。試験の一件以来、諦めたつもりでいたけど……。
でもやっぱり無理だ。感情に抗うことができない。
僕だって、京汰と共に、毎日彼女を見ているんだから。僕だって、直接は話せないけど、彼女の虜になってしまった1人なのだから。僕だって可能なら、この想いを実らせてみたいんだ。
——どんな手を使ってでも。
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