#29 やっぱ神様好きです
俺の学校では、1年と2年はクラスの出し物が義務化されている。各学年6クラスずつあって、半分が模擬店、半分が劇や展示といった感じになっている。俺や多くの男子陣は当日全然仕事しなくていい展示でいいやー、と思っていたのだが、女子陣がどうしてもカフェやりたい! と主張しまくっていたので、模擬店クラスになった。女子強え。
そんなこんなで今から、教室をオシャレなカフェに変貌させていく作業が始まる。俺らのクラスのテーマはインスタ映え。キッチュでポップな店を作り上げるべく、女子が奮闘している。男子も店員やんなきゃいけないこと絶対考慮してないよなー、ここ一応共学なんだけどなーって思いつつも、「椅子と机動かして! 重いから!」とバンバン指示してくる女子達に対し、俺らは黙って従っている。女子強え。
悠馬はさっきからいたりいなかったりしている。当然文化祭の雰囲気が初めてなので、色んなブースの準備風景を見て楽しんでいるようだ。
男子は皆従順だったが、俺は特に従順に働いた。机の位置が違うと言われれば謝ってやり直し、あの箱を運べと言われたら素直に運んだ。不平不満は言わない。チラリと俺を見るかもしれない華音様に、中身はイケメンだと思われたいからだ。ゆーてね、実際そこそこ中身はイケメンだと自分で思ってるけど。誰だろうと女子が重たい荷物を持っていたら、すかさず手伝った。華音様じゃなくても、可愛い子にお礼を言われると嬉しいものである。途中、城田に「お前軽く気味悪いぞ」と言われたが気にしない。お前のおねだり癖の方が気味悪い。
しかし肝心の華音様は、他の男子が手伝いを申し出ても断っている。「ありがと、でも私バスケ部だからこれくらい平気だって!」と笑顔で答えるだけ。そして皆その笑顔の破壊力に完敗し、「あ、そっか……」と言って去り、男子陣の輪に戻って「無理や……」と弱音を吐く、を延々と繰り返していた。どうにかならないものか。俺は何としても手伝いたい。
突然俺はひらめき、階段へと走っていった。今さっき、華音様が荷物を2階の教室に運ぶため、階段を下っていったのだ。……お、後ろ姿発見。重たそうな段ボールを、一気に2つも運ぼうとしている。……ん? 今左膝を手でさすった?
とにかく、彼女のところまで駆け下りる。
「お、おい、それで運ぶ段ボール終わり?」
「あ、うん、あと2つだからまとめて持ってっちゃおうと思って! だから藤井くんは部屋戻って大丈夫だよー」
くああ、パッと華が咲くような、この笑顔。そして凛とした声音で俺を呼ぶ。名前にぴったりの麗しいお方だ。倒れそうだけど、頑張って踏ん張る。
「いや、それ1つでも重いし、俺1個運ぶから」
「ありがと、でももう2つ持っちゃったし! 1階分だから。それにバスケ部で鍛えてるんで余裕だよ!」
「あ……それは分かるんだけどさ、ほら、バスケ部だからこそ、試合前に怪我とかしちゃいけないし。レギュラーなんだろ? 無理すんなって」
そう、このセリフこそが俺の秘策なのである。これなら断れないだろう。
「そうかもだけど、今怪我してないし! 無理もしてないからほんと大丈夫! 気持ちだけで!」
え。通用しないの?! それは予想外。どう攻めよう。……あ、さっき左膝さすってたの大丈夫なのかな……実は怪我してるんじゃ……。
「ほんとに? 嘘つくなよ。無理してるだろ。さっき、左膝さすってたよな? ちょっと痛いんじゃねーの?」
あ、ヤバい、意地悪な言い方になったかな……華音様の顔が、ハッとした表情に変わる。瞬きして、今一度俺を見る。ああごめんなさいこんな強く言うつもりじゃ……!
「あ、見てた……? じゃあ隠せないな……うん、実は少し痛めてるけど、ほんと試合には影響ないし! それにこれがバレたらコーチが大事をとれとか言って、レギュラー外されちゃうかもしれないから……クラスにも女バスいるし、内緒にしといてくれないかな……」
内緒……え、華音様と2人っきりの秘密の共有?!
「あ、いや、そりゃ内緒にしとくけど……今は大丈夫でも悪化したら大変だろ。とにかく2つとも俺が持つから」
すると、華音様は素直に俺に段ボールを2つ委ねた。お、頼ってくれたじゃん! 頼られることこそが男の幸せなんだよな。受けとる際に一瞬、手が触れる。うわあ倒れちゃう。
「びっくりしたけど、気づいてくれて嬉しかったかも。ありがとう、京汰くん、文化祭頑張ろうね!」
「お、おう!」
……やばばばばばばばばばっっっ!! 初の京汰くん呼び!
その後、バスケの試合についてなどの話を少ししながら教室に帰ってきた俺たちを見て、男子陣は目を丸くしていた。別れ際、華音様は「ありがとね」ともう一度俺に言ってくれた。それはこっちのセリフです華音様。
確実な進歩。近づいた距離。神様は俺に微笑んでる。ハロウィンといい、今日といい最高かよ、もうもうっ!!
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