てんこ盛りの11月

事前準備

#28 俺に幸運を返してくれ

 とうとう11月に入ってしまった。11月といえば、俺たちの高校の文化祭である。だいたい文化祭というと9月から10月が多いが、俺の学校はなぜか11月だ。理由は定かではない。なんでなんだろ。文化の日の前後でやるべき! みたいな考えなのかな。

 まあとにかく、実は今までそれなりに準備も進んでいたわけで。……あ、俺は帰宅部だけど、クラスの出し物には参加しなければならないというルールがある。全員一応は、学校の一員としてイベントに参加しましょう! というわけだ。あるあるだよね。でも帰宅部員の士気が高いわけがない。義務で参加してるんだからそんなの当然だ。……と、思っていた。というか、他クラスの帰宅部員は一様に士気が低いからな。


 しかし俺は、てか俺のクラスは、違った。士気はめちゃめちゃ高かった。

 なぜって、それは我らが篠塚華音様がいらっしゃるからに他ならない。俺のクラスでは文化祭2日間のうち1日、模擬喫茶を開くのだが、そこで彼女のウエイトレス姿が拝めるのである。彼女はバスケ部に所属しており、また1年という立場は1番下っ端なので、試合など当日の拘束時間が長い。故に、彼女の模擬店のシフトの時間は非常に限られるのである。そしてその限られた1時間のシフト目がけ、非リア男子が全力をかけて戦うのだ(リア充男子はちゃっかり自分の彼女と同じシフトに入れたりしていて、俺らの戦いには加わらない。そういう奴はどーでもいい。勝手にカップルで楽しんでてください)。もちろん、華音様の空いている時間が合わない非リア男子もいて、最初から脱落者が数名いた。こういう時に帰宅部は強いんだよなあ。

 結局、華音様のシフトには男子が3人入れることになった。女子は華音様と他2名。彼女の仲良しメンツである。そして皆顔面偏差値の高いこと。その男子3枠に、俺ら12人が殺到した。つまり倍率4倍。恐ろしや。ちなみにこの中には、以前スナックトスをおねだりした奴(ちなみに奴は城田、という。中身クズなのに名字は素敵なんだ)も含まれている。シフト争奪戦はくじ引きで決めることになった。引いたくじに赤い印が付いていたら当たりである。シフトの調整方法がくじ引きに決まる前、例の城田が華音様に王様じゃんけんをおねだりしたが、あっさり断られた。「私がいるかどうかで決めないでよ」、らしい。申し訳ないが、それでもあなたの存在は大事なんです。というか城田完全に嫌われた説あるな。



 運命のくじ引きが行われた。強い想いを胸に、くじを引く。折り畳まれた白い紙。中身赤い印ありますように……! どうか、昨日のスナックトスのように俺に幸運を……!

 全員が引き終わり、俺らは一斉に紙を開いた。結果は……


「「嘘やろ」」


 俺と城田の声が重なった。ってことはお前も……?


「っしゃあああ!! 京汰見ろよ俺の赤いぞっ! こんな幸せあるか?! テニス部の試合だるいけどこれなら俺全力投球するわ!! あ、ねね、京汰は? どーだった?」

「なんでお前のが赤くて俺の白いんだ……俺真っ白だぞ、帰宅部でかつ白紙だぞ」


 えええマジかよ俺お前と一緒のシフトだったらさらにハッピーだったのにお前ついてねえなあ!! と言われるが、こればっかりは運だ。どうしようもない。涙出そう。城田以外の男子2人も歓喜の雄叫びをあげている。なんで華音様に嫌われたとしか思えない城田が当たりなんだ。解せない。現に華音様達も城田の名前が書かれるのを見て、えーっと落胆の声をあげている。ああ、なんて世界は理不尽なんだ。昨日で、俺は今年の幸運を使い切ってしまったのだろうか。あぁぁそれなら俺に幸運返してよ神様ぁぁぁ!!!


<残念だねぇ京汰。んじゃ僕は当日、華音様の隣にいるから~♪>


 窓際に腰掛けていた悠馬が俺にメッセージを送ってくる。

 ちょっと待て悠馬……お前なんて奴だ。俺を慰めるとかないのか。カウンセリングは式神の役目じゃねぇのか。俺は悠馬を一瞥し、思わず舌打ちした。

 こうなったらこの準備期間中に、華音様をたくさん拝むしかない。


 俺たちの学校は、11月の4日と5日の土日が文化祭である。3日は文化の日で祝日なので休み、つまり前日なのに登校できない。そのため、例年は前日だけで準備をしていたのだが、今年は1日と2日の2日間で準備を行うことになっている。よって、運命のくじ引きを行った本日1日も、準備デーなのである(色々あって1年のシフト決めがギリギリになってしまったことも一応記しておこう)。


 文化祭実行委員の「これから教室に色々運ぶぞー」という声で、悲喜こもごもの俺たちは一斉に教室を飛び出した。

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