#27 ドMじゃないんだけどな
放物線を描いた、可愛い包装のお菓子が俺の前でどんどん大きくなっていくのが見えて、変な声が出てしまった。
「うわっ?!」
危うく、お菓子を落としそうになった。もったいないもったいない。こんな機会、死ぬまでにあるかどうかなんて分かんないんだから、ちゃんとキャッチしなくちゃ。
華音様が描いた放物線は、俺の手の中を終着点にした。ぽすっ、とお菓子が収まり、皆の目線が一瞬でこちらに集まる。女子は驚きの眼差しで、男子は呆然とした眼差しで。男子に至っては、その
あぁ、そうか。俺こんな顔してたんだね。そりゃあ近付きたくないわな。とここで妙に納得してしまったよ。
俺が近付きたくないと思うほどに男子が怖い理由は……
そう。俺が、この藤井京汰が、華音様のたった一度きりのスナックトスを、キャッチしてしまったからである。トスをお願いした友達は、俺を恨めしそうに見ている。「うらめしやー」って言いそうな顔、というのを俺は初めて見た気がするよ。最悪なことに舌打ちまでされた。おい待てよ、俺達友達だろぉ?! そんな怖い顔しないでよ、呪詛かけられて殺されそうじゃんその顔、どうしよう。
悠馬はただ目を見開いている。こいつもこいつで何か怖いけど、まぁ怖いのはバケモンのデフォルト特性だから仕方ない。
逃げ場を失った俺は思わず、華音様を見た。彼女は、くるんとした大きな瞳をちょっと細くして、微笑んでいた。……やだ何これ。何この感覚。ずっきゅーんって感じ。
「わーお、藤井くんナイスキャッチ! ハッピーハロウィンだね♪」
華音様の指紋、すなわちDNAがついたお菓子を見事キャッチして、俺だけにあの柔らかな笑顔と可愛いセリフを届けてくれている。なんてこった。こんな日がやってくるなんて。夢かな、なんて思ってほっぺたをつねってみるが普通に痛い。ただこの痛みが現実であることの証明だから、とんでもなく嬉しい。ドMではないです。
俺ね、今なら冥土に行ける。これから三途の川自由形個人メドレーやれますよ。いつでもホイッスルを鳴らしてください。ありがとう神様。……あれ、仏様? どっちだろ。んふふ。
そんな120%お花畑の思考が脳を占拠して、少しの間ふわ〜っとしていたが、ふと我に返った。早くお礼言わなきゃ。
「あ、ありがとな! ハッピーハロウィン!!」
華音様は再び目をちょっと細めて、口角をきゅっと上げる。シャッターチャンス。俺は心の中でパシャリと撮影した。ノーフィルターでめっちゃ盛れてる。
やった……! 華音様とマンツーマンでのコミュニケーションが取れた! しかも、事務的じゃない内容で。最高かよ。
華音様が仲良しの女の子の輪に戻っていった後、俺は思わず呟いてしまった。
「生きてて良かったわ」
「「「聞こえてっぞぉぉ京汰ぁぁぁお前ぇぇぇぇこのぉぉぉぉ」」」
「ふぎゃ」
小さな俺の呟きは、近くの男どもには漏れ聞こえていたらしく。やっと双眸に光が戻ってきた男子陣にもみくちゃにされた。まあ、もみくちゃにされるだけでは当然済まされなくて、もちろん腹に一発食らったわけで。でも華音様の笑みを思い出せば、こんなの全く痛くない。嬉しい痛み。
……ドMではないです。
もみくちゃにされる前にお菓子は丁寧に鞄にしまって、家まで丁寧に持ち帰り、悠馬に奪われないよう丁寧に独占し、丁寧に頂いたことは言うまでもない。
なんて最高なハロウィン! 俺やっぱ華音様大好きだ!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます