#33 女尊男卑

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 一夜明けて11月2日。

 俺は結局、悠馬に“俺と華音様だけの秘密”をあっさりと吐いてしまった。なんてこった。突如失態に気づき泣き始めた俺を、悠馬はずっとなだめてくれてたな。頭ぽんぽんもしてくれた。式神に頭ぽんぽんされる人間って画的にはアレだけど、実際めっちゃ嬉しかった。もっと言うとキュンとした。悠馬に胸キュン。……えーとこれ以上は自粛しよう。


 模擬店の話に戻ると、昨日で店の外観や内装は一通り仕上がった。パステルカラーをふんだんに使って、ハート型の風船なんかもいっぱい飾り付けてあって、これでもかというくらい、見事にキッチュでポップな空間になっている。

 女子は一旦完成するなり、「きゃーめっちゃ可愛い♡ 超やばーいうちら天才じゃん!」などと喚いているが、本音言えば男子はたまったもんじゃない。ここで1時間のシフトを務めることは軽い拷問に等しい。1番文句を言っているのは柔道部と野球部の連中だ。確かにそういう見た目でこういう店いるの辛いよな。超絶分かる。俺でさえ、キュートな空間が瞬く間に出来上がっていくのを見て、妙に落ち着かなくなってしまったのだ。これはむしろ、華音様と違うシフトで良かったかもしれない。華音様と同じ空間+超絶フォトジェニックな空間のダブルパンチで、心も体も色々と死にかけた可能性が高い。


 今日は、衣装の確認と料理の仕込みを行う。当然、衣装も料理も女子が光の速さで決め、俺達男子にはマジで一言も喋らせなかった。同意を示すために挙手させられただけだ。挙手さえももうほぼほぼ強制的で、挙げなければ「ノリが悪い」だの「あんたら意見あんのかよ」だの徹底的にディスられるので、俺達は黙って手を挙げる。どうせ代案をあげたとこでね、すぐに「いいね」と言ってくれる生き物ではない。彼女達が「いいね」をするのはSNS上のキラキラ投稿だけ、と相場が決まっているのだ。俺達に勝ち目はない。

 これが俺のクラスの実態である。ホームルームから民主主義とか多様性という言葉は完全に消え去った。学級運営は社会の闇だと俺は本気で思ってます。


<京汰、そういうことはスラスラと喋れるんだね>

(そういうことって?)

<自分で完全に理解できてるかも分かんないような御託を適当に並べて、いかにも新聞の社説とかネットニュースの一番上のコメントに書いてありそうな言い回しをとりあえず使ってみる行為>

(……お前消されたいのか)


 悠馬こいつも闇だな。お世話係がここまで酷いこと言うか普通?! 主従関係ってもんをちゃんと教えてやらなくちゃ。


 ……おっと、いけねえ。本題に戻ろう。何の話してたんだっけ?


<衣装と料理の話してたのに、京汰がそっから女子の権力について適当な御託を並べて学者気取りみたいに滔々とうとうと話し始めて>

(以下略しとけ)


 そう、衣装と料理の話だった。

 男子は制服シャツの上に黒のジャケットと蝶ネクタイ、女子はフリル付きエプロンとリボンのヘアアクセサリー。ジャケットは各自持参で、蝶ネクタイと女子の衣装一式が手作りだ。衣装作りは男子も動員された。しかし「縫い方が汚い」だの「小学校で何を習ったの」だの、感謝の言葉1つもないまま総攻撃を受けた。小学校の家庭科とか覚えてねえよ……。

 それでも何とか出来上がり、全員、一度衣装に袖を通してみる。……ああ、華音様の殺人的に可愛いことよ。あなたはその可愛さで人を殺せるよ。ある意味才能。

 他の皆も、見事に生気を吸い取られている。そりゃそうだ、無理もない。


 ああ、文化祭楽しみだなあ。

 シフトは違うけど、帰宅部というのは非常に融通が利く。華音様が1年で唯一のレギュラーだというバスケの試合を見に行かない選択肢があるだろうか? 否、ない。風邪引いても這いつくばっても死んでも行く所存である。彼女のウエイトレスとユニフォーム、両方見られるなんてなんて素晴らしいことなんだ。

 ……などと夢を膨らませている間に衣装合わせは終わり、料理の仕込みも一段落した。終礼が終わって帰宅部の俺は即下校だが、部活組は今日も祝日の明日も練習や準備だ。華音様も城田もそうである。


 今日は華音様が膝をさする場面を見ていない。良くなったかな。大丈夫かな。城田はともかく、華音様に俺は心の中でエールを送った。

 頑張れよ、って。

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