第36話 『死ねばよかったのに』

 まず感じたものは冷たさだった。そして頭痛。視界が暗い――なにも見えない。一体ここはどこなのだろう。思考がひどくぼんやりとしている。自分の体とその他の境界線がひどく曖昧になっていて、まるで蕩けているようだ。そこから徐々に形を形成していって、最初に出来たのが右の指先。それから腕。左の指先と切り取るようにして熱を持つ。脳が脳としての役割を果たし始めたのはもっと後だ。自分が床に転がされているということを自覚するまで時間がかかる。頬の冷たさは床の冷たさ。頭をくらくらさせながら起き上がる。畳まれた長机と椅子が壁に寄り掛かるようにして並んでいる。荷物置き場なのだろうか。暗いけれど、全く見えないわけではない。部屋の隅には布の掛けられた銅像だとか古い絵画だとかが置かれていて、どれもこれもうっすらと埃を被っている。ショーケースには罅がいくつも入っていて、左腕のない全裸のマネキンはどういうわけかアフロの鬘を被っていた。倉庫というには広さが少しありすぎる。どっちかというと、今はもう使うことのなくなった展示スペースのようにも見える。

 くるくると見回しながら歩いていると、何かに躓く。細長い棒のようなもの。それが本物の人間の足だ気づくのに時間が掛かる。

 穂積文乃だ。

「穂積さん」

 パイプ椅子と長机のに転がされていた文乃。どうやら気を失っているらしい。ゆさゆさと体を揺すると、くもぐった声を出した。生きている。どうやら死んではいないらしい。

 ゆっくりと瞳を開いた文乃はごしごしと瞼を擦った後、正面に佇む僕のことを視界に入れてびくんと体を震わせた。

「あ……」

「ん」

「あんざい、くん……」

「うん」

 両手を引っ張って無理やり立たせる。どうやら怪我はないらしい。どうやってこの場に来たのか、と問いかけると、

「わかん、ない……トイレ行って、みんないなくて……気がついたら、ここにいた……」

 だろうな。僕もどうやってこの場に来たのかわからない。大方、同じようにしてどこかの誰かに無理やり連れてこられたのだろう。

 さて、一体どうやってここから抜けるかなどと考えていると、文乃が震えた声で言った。

「あん、ざいくん……」

「なに?」

「頭……怪我、してるの……」

「え?」

 間抜けな声を出して頭を抑えると、そこに広がるぬるりという感触。血が出ている。頭が痛いのは殴られたせいだと思っていたが、出血しているとは思わなかった。

「大丈夫?」

 ひよこのようにして後を追ってくる文乃が心配しそうな声を出す。というか、文乃の声というのは大体いつも心配げで不安そうなのだけれど。

 彼女の問いかけに「大丈夫だ」と僕は言う。文乃はほっと息をついたあと、二つ目の疑問を口にした。

「あんざいくんは、どうしたの?」

 どうしたの、とは、一体なにをどうしたのだろう。

「どうして、ここに、いるの?」

 彼女の問いかけに、僕は少しだけ考えてこういった。

「穂積さんを探しにきた」

「……」

「尾坂さんが、穂積さんがいないって心配してたから。だから来たんだ」

「なお、ちゃん、が……」

「そう」

「……ありが、と、う……」

「うん」

 などという意味のない会話をしているうちに扉を見つける。少し光が漏れている。かちゃかちゃと回して前後に引くが、金属の擦れる音を立てるだけで動く気配が一向にない。

 がちゃがちゃと数十秒動かしていると、全く動く気配のなかったドアノブが変化を見せる。

 かちゃり、という音と共に隙間が開いて、光が伸びる。それを遮る黒い人影。後ろにいる文乃が小鳥のように小さな悲鳴を上げる。でも僕は驚かない。なぜなら僕は、そこに現われるであろう人間を知っていたからだ。

 白いパーカーにジーンズを着込んだ黒田幸彦は、僕の鼻先に銃口を突き付け、そのまま真っすぐ進んできた。黒田が真っすぐ進んでくるので、僕らも後ろに下がらずにはいられない。ばたん……という音を立てて、黒田が扉を閉める。その際鍵を閉めることを忘れない。パーカーのポケットから取り出した細長い鍵はあっという間に鍵穴に突っ込まれて、瞬時にかちんと音を立てた。けれど僕の鼻先に突き付けられたライフルは降ろさない。ああ、このライフルで僕の頭を殴ったのだろうかなどとどこか冷静な頭で考える。

 扉から五メートルほど歩いたところで動きは止まる。その間にできた僕と黒田の距離もまた五メートルほど。僕達は五メートルの距離を保ったまま暫し静寂の時を保つ。

 その静寂を遮ったのは黒田だった。

「目、覚めたんだ」

 こういうとき、なんて言ったらいいのだろう。「うん」「そうだよ」「お陰様で」――どれもこれもしっくりこない。

 僕が何かを言う前に、また黒田が先を越す。

「頭、血が出てるね」

 うん。

「俺のせいだ」

 そうだよ。

「そのまま死ねばよかったのに」


 なんてことを言うんだ。


 黒田幸彦は一体何を考えているんだ。電車に轢かれて死んだ佐野麗香の恋人。僕のクラスメイトの委員長。僕にお金を貸してくれた黒田幸彦。パンをおまけしてくれた黒田幸彦。自分の両親を殺したであろう黒田幸彦。僕に怪我をさせた黒田幸彦。黒田にはいくつもの顔があり、どれもこれも同一人物のはずなのにまるで別人のように見える。一体、どれが本物の黒田なんだ。

 僕には、黒田が考えていることがまったくわからない。

「黒田は」

「なに?」

「僕を、殺したいの?」

 何気なく声に出したその一言に、銃を抱える日に焼けた黒い腕に力が籠る。

「殺したいよ。お前のこと。殺したいほど憎い」

 なんで黒田はそんなに僕のことを憎んでいるんだ。

 僕は一体、人畜無害であったはずの黒田幸彦に一体何をしてしまったのだろう。少なくとも、僕にお金を貸してくれた黒田幸彦はこんな瞳をしていなかったはずだ。

 けれど、僕のその疑問は声にすることなく解決される。なぜなら、興奮しきった黒田が自分で勝手に話し始めてくれたからだ。

「あの夜……麗香は俺と一緒にいたんだ……また明日教室でって……一緒にDVDを見て……夕飯を食べて……笑ってて……スマホ忘れてったから……まだ間に合うって思って……俺……あいつの名前呼んだんだ……そしたらあいつ……こっち振り向いて……」

 黒田はなぜかそこで一度声を詰まらせ――歯を食いしばった。

「……笑いながら、線路ん中落ちてったんだ……意味わかんねぇだろ……? ……なんであいつが、死ななきゃいけなかったんだろうって……一体誰のせいなんだろうって思った……調べたんだ……俺一人じゃ無理だったから……そういう会社あるんだぜ……? 安西、お前知らないだろ? お前、世間知らずなとこあったもんな……」

 ああそうだ。スマホの使い方もろくに知らない僕は、確かに世間知らずなのだろう。

 僕よりもよっぽど世間を知っているのであろう黒田に僕は問いかける。

「どこで調べたの?」

 黒田は、赤く血走った瞳をきつく光らせて、言った。

「カンノ株式会社だよ」


 やっぱり。


 黒田とカンノが繋がっていたことについては正直今更不思議でもなんでもなかったのだけれど、それでどうして僕のことを殺そうという気になるのかまるでもってわからない。

「聞いたんだよ……お前がEWCで雇われた、穂積のボディーガードだってな……麗香が穂積を嫌っているのは知ってたから……でもまさかそれで……突き落とすとは思わなかったよ……」

 おいおいおい。

 確かに僕はEWCと繋がりはあるけれど、話が大分違っている。僕は穂積文乃のボディーガードではないし、線路に佐野麗香を突き落としたわけでもない。確かにカッターで切り付けてみたり銃の引き金を引いたりしてみたりはしたけれど、どれもこれも熊を追い払うようなものであって、決して殺したり傷つけたりというそういう意思があるものではなかった。

「僕は知らな――」

「黙れ!」

 パァン!

 僕は咄嗟に後ろにいる文乃を吹っ飛ばしてそのまま横に転がった。細長いライフルの先端にある細長い口から小さな弾が勢いよく飛び出して、マネキン人形の右腕が飛ぶ。それと一緒に、僕のベストの内側からピストルも飛ぶ。両腕がなくなってしまったマネキン人形はひどく哀愁をそそるのだけれど、生憎マネキンの心配などしている場合ではない。僕の胸元から飛び出したピストルはくるくるとブーメランのように回転しながら白い床を転がった。行き着いた先はスニーカーを履いた黒田の足の先。黒田はライフルを投げ捨てると、僕の大切なピストルを拾い上げて、笑った。

「よかった。俺のライフル、丁度弾がなくなったんだ」

 全然よくない。

 足元に転がるカートリッジは、無残にも主に蹴飛ばされて隅のほうに追いやられる。行き着いた先が転がった文乃のスカートの裾。いくら力いっぱい突き飛ばしたとしても遠くのほうまで転がりすぎだろ一体どこまで軽いんだよなどとどうでもいいことを考えている。僕の胸ポケットからピストルが飛び出ているようにして文乃のスカートのポケットからも長方形の何かが飛び出した。スマートフォンだ。何かついている。透明な緑の蝶々のストラップには見覚えがある。僕が買って渡したものだ。鈍くさい文乃はひどく緩慢な様子で起き上がり、自分のスマホが床に転がっていることに気が付いた。彼女は四つん這いの姿勢でそれを拾おうとするのだけれど、残念ながら彼女の腕に渡るよりも黒田の手に渡った僕のピストルにより破壊されるほうが早かった。バン! 哀れにも粉々になる白いスマホ。眼鏡の奥で見開かれる文乃の瞳。

「俺の父さん、趣味で狩猟大会とかよく出てて。小さい頃は、それを見によくひっついてってたんだ。本物は触ったことなかったんだけど――おもちゃだったら、よく遊ばせてもらったよ」

 おもちゃじゃないよと僕は言う。すると黒田はにやりと白い歯を見せた。

「知ってるよ。だから俺は殺したんだ」

 黒田は項垂れる文乃の腕を引っ掴むと、かなり乱暴な様子で起き上がらせた。僕もなんとか立ち上がる。正面では、文乃の首を抱えた黒田が彼女の小さな頭に僕のピストルを突き付けている。

「動いたら撃つよ」

 物騒なものを持った黒田が物騒な顔で物騒なことを言うので、僕も立ち上がったままの状態で身動きを取れない。いや、もし身動きが取れたとしても僕に一体何ができるというのだろう。文乃は人質にされているし、僕のピストルも今は黒田の手の中だ。完全なる丸腰だ。動いたら文乃がやられる。そのあと更に僕もさくっとやられるだろう。前に撃ったはずなのにどういうわけか後ろに飛んでしまう僕と、数百メートル先まで正確に狙うことのできる黒田。腕前では完全に黒田が上だ。

 武器。せめて何か武器が欲しい。何でもいい。僕が今持っているもの。家の鍵。財布。学生証。定期。どれもこれも全く役に立たない。ティッシュにハンカチなんて、黒田の鼻を優しくかむ程度で、掠り傷一つつけることすらできやしない。

 せめて何か。何か他にないのだろうか。視線だけ動かして辺りを見回すと、羽のない天使のオブジェの上に鉛筆立てが置かれているということに気が付く。それから、鉛筆やボールペンが混在するその中にカッターと鋏が存在しているということ気が付いて、生まれて初めて神様という存在に感謝する。だがまだだ。まだ感謝しきれない。いくらそこに武器があっても手元になければ意味がない。僕との距離は二メートルほど。どうにかして隙を作ることができないだろうか。

 ここで僕は神に人生二度目の感謝をする。美しいこの美術館に住み着いていたネズミがこの騒ぎに惹かれて姿を現した。興奮をしたネズミが全力疾走で走り出して、無造作に置かれていた花瓶を倒したのだ。花柄の花瓶が床に落ち、甲高い音を立てて割れて散らばる。それに反応を示した黒田幸彦。僕は黒田の気が逸れたその一瞬を逃さない。ぱっ、と二メートル離れた場所にある鋏を手に取り、投げる。以前休み時間に野々村の提案で行った手裏剣遊びの要領だ。全く役に立ったことのなかった野々村の知識は意外なところで成果を発揮し、僕の放った鋏は黒田の右腕の甲に刺さる。それのおかげで文乃を抱える拘束が緩み、僕のピストルも黒田の手から脱出する。右手に鋏が刺さったままの黒田が転がったピストルを取ろうとするが、今回ばかりは文乃のほうが早かった。

「穂積さん!」

 僕は文乃の名前を呼んだ。勿論、「そのピストルをこっちに渡せ」という意味を込めてだ。決して、その銃口を黒田に向けて引き金を引けという意味で呼んだわけではない。だがしかし、文乃は引いた。黒田幸彦に向けて、真っすぐ引き金を引いたのだ。直径5.56センチの銃口から飛び出した銃弾は真っすぐ黒田の中央部分を貫いた。黒田の胸から血が噴き出て、不規則に揺れてそのまま後ろにトン、と倒れる。火に焼けた黒い肌からどんどん血の気が引いていく。床はどんどん赤くなる。僕は鋏を投げたままの態勢で固まっている。口は半開きだし、眉間に皺も寄っている。ひどく間抜けな表情だけれど、これは仕方のないことだ。なぜなら僕は、このときなにが起こったのか全く理解ができなかったのだから。

 けれど、文乃に心臓を打ち抜かれた黒田はもっと理解ができなかっただろう。なにせ相手は、暗くてノロマで自分の彼女が散々ひどく痛めつけていたあの穂積文乃だったのだから。

 口から滴る真紅の血液は白いパーカーに模様を作り、強い光を放っていたはずの瞳からは涙が流れた。その輝きが数秒ごとに消えていき、次第に何も見えなくなった。完全に息が途絶えたのだ。

 僕も暫く放心状態だったのだけれど、チューチューうるさいネズミが目の前を通過したことにより漸くのこと我に返る。

 黒田が死んだ。

 黒田幸彦は死んだんだ!

 その事実は、新しい感情を僕に与えた。

 このトラブルを乗り越えたという安堵。死ぬことなく生き延びたということに対する歓喜。クラスメイトを目の前で亡くしてしまったという喪失感。

 そう、喪失感だ。

 クラスメイトで委員長であった黒田幸彦が目の前で死んでしまったことにより、僕の心の一部分にはぽっかりと丸い穴が開いてしまった。僕の心の大きさなんてどれくらいなのかわからないけれど、それなりに存在感のある大きな穴だ。これにより、僕は僕の中で「黒田幸彦」という人間がそれなりの地位を持っていた、存在感を放っていたということに気づかされる。

 そこで僕はふと思う。

 僕はもしかして、黒田と「友達」になりたかったのだろうか。

 野々村や植草と同じように、放課後寮の部屋に遊びに行ってお菓子を食べながらゲームに興じたり、スマートフォンでどうでもいいようなLINEを送ったり、学食の新しいメニューの食べ比べをしたりしてみたかったのだろうか。

 白目を向いた黒田の遺体を前にしてそのような学園ライフを想像してみる。それもありだな、とふと思う。もし僕がもっと違う形で「黒田幸彦」と出合うことができたのならば、もっと違う関係を結ぶことができたのならば、もっと楽しく快適に過ごすことができたのかもしれない。

 けれども遅い。黒田幸彦は、たった今、ほんの数秒前に死んでしまった。憎むべき僕のピストルにより、自分の恋人がいじめていた、穂積文乃の手によって。しかしこれで、黒田幸彦も愛すべき佐野麗香の元に行けたわけなのでこれはこれでいいのかもしれない。全く、あの女のどこがそんなによかったのか、僕には全くわからないけど。

 僕はふと思いついて、ポケットから財布を取り出す。僕はまだ、借りたお金を返していない。借りたものは返さねばいけない。それが礼儀だ。だがしかし、僕の財布の中にはまたしても小銭が足りない。一番小さな硬貨で五百円玉しかない。仕方がないので、僕はそれを鋏の刺さったままになっている黒田の指に握らせる。これは利子だ。五百円あれば、天国の佐野とジュースの一杯も飲めるだろう?

 自体はすでに終結を迎えているというのに、文乃は未だ蹲っている。無論、ピストルを握ったままの状態で。弱虫な文乃には銃も殺しも死体だって、今回のすべてがあまりに刺激的だったのだろう。

「穂積さん」 

 と僕は言う。蹲ったままの小さな文乃。彼女は、蚊の鳴くような小さな声でこう言った。

「……殺しちゃった……くろだくん、わたしの、クラスメイトだったのに……」

 仕方のないことだったんだ、と僕は思う。これは正当防衛だ。なにせ黒田は、すでに何人も殺している。もしあそこで文乃がアクションを起こさなかったら、僕らは二人ともすでに殺されていたのだろうから。

 この時の僕は、第一の修羅場を乗り切ったことにより完全に気が緩んでいた。安心しきってしまっていたのだ。黒田幸彦が死んだことにより、自分の使命もリコリスの言葉も完全に忘れきっていたのだ。

 僕の使命は、穂積文乃を殺すこと。

 リコリスの言葉は、「いつどこで危険が潜んでいるのかわからないから、決して銃を話さずに気を抜かないこと」

 それさえ念頭に置いていれば、決してこんなことにはならなかった。いや、むしろ文乃がおとなしくしている時点で僕のピストルを奪い取り、心臓を撃ち抜いてやればよかったのだ。

 それこそ、文乃が黒田にしたようにして。

 文乃は緩慢な動きでゆっくり顔をあげ、僕の顔をじっと見据えた。眼鏡がない。この騒動でどこかに落としてきたらしい。丸みを帯びた大きな瞳の中に僕の姿が映っている。

「……そうだよね……仕方ないよね……」

 おさげがかなり乱れている。もうあと少し運動すれば、完全にほつれてしまいそうだ。

「だって黒田君、わたしの宝物壊しちゃったんだもん」

 そう言って、床に落ちたままであったライフルを手に取った。弾切れで見限られた、黒田幸彦の元相棒。彼女は胸ポケットから何かを取り出すと、さっ、とそれをライフルに押し込めてトリガーを引いた。ガガガガガガッ! という鈍い音を立て発射される銃弾。あたりに散らばるカートリッジ。それと同時に粉々になる黒田の体。あたり一面に飛び散る真紅の血液。血の海というのは、まさにこのことをいうのだろう。この間わずか十数秒。

 押し込めた銃弾をすべて使い切ると、比較的綺麗な状態であったはずの黒田の体は蜂の巣になっていた。白い床が真っ赤になって、離れた場所にいる僕の足元まで流れてきている。完膚無きまで徹底的に痛めつけられた黒田の体に満足したのか、文乃は再び空っぽになったライフルをぽいっ、と投げ捨てた。血飛沫のついた狙撃銃が血の海に沈む。

 僕はまだわからない。一体何が起きたのか、文乃が一体何をしたのか。

「あー、ムカついた」

 彼女はそう言って、大きな瞳に冷たい光を点らせた。

 

 

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