第十六話 夏休み3
父がどうして僕をこの学校に入れたのかといろいろと考え始めたのは父が亡くなってからだった。志望校に合格できたのに遠くの中学に入学することを告げられたとき どうしてそんなところに行かなくてはならないかを涙ぐみながら訴える僕を悲しそうな目をして見ていた。思い起こせばステージ4のころだったろうか。
そして、父が亡くなった年だった。なんとかそのまま高校への進学が決まったがやる気もないまま冬休みに帰省したときに母が言った。
-お父さんからの誕生日プレゼントがあるの……
-えっ、どうして!?
段ボールの箱を渡された。箱には20XX年とマジックで殴り書きされている。開けてみると本が入っていた。
手に取ってみると岩波文庫の「君たちはどう生きるか」と池澤夏樹の「星の王子さま」の二冊の本と一編のノートだった。
寮の同室だった友人がいつも星の王子さまの本を抱えていて何かあると牧師のように書かれていることを話していたことを思い出した。
そして母がパソコンの画面を僕に向けていった。
-お父さんからね、誕生日のお祝いのビデオがあるの。お母さんも初めて見るから
一緒に見ようね。
語り掛けてくる父がいた。病床につく前の父。これまで父の葬式でも母が泣きくずれていたから泣くことはなかったが涙があふれた。母も涙ぐんでいた。
-元気かい。パパも元気だよ。
誕生日おめでとう。15歳になったんだね…………少しは大きくなったのかな。
さて、君が二十歳になるまで毎年のプレゼントに読んでほしい本を贈りたいと
思う。パパが好きな本なんだけどできれば時間があるときにでも読んでほしい。
まだ将来のこととか自分の目標とかどんな仕事に就きたいかとかわからないと思う
けれど大学に行ってから深く考えてほしいことや少しづつでも今から考えてほしい
ことが書かれた本を贈りたい。
いや、でも、必ずしも大学に行かなければならないわけじゃないんだ。やりたいこ
とがあってそれで自立できるんであれば行かなくてもいいんだけれど……
……ただ一つだけ守ってほしいのは、いつか言ったようにこれからはママを守って
ほしいことなんだ。これだけはパパから本当にお願いしたいんだ。
…それじゃ、……来年もこの日に会えることを楽しみにしているよ。
……部活も勉強も頑張れよ。
本を携えて自分の部屋に戻ると食い入るように読み耽った。書かれていることのすべてが父が語りかけてくる言葉のように思えた。
人間力って…………なんなのか………少しは、わかるような気がしてきた。
そしてこの寮と学校で過ごすことができた日々が父からのなによりのプレゼントであったことを年を追うごとに知るようになった。
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