第九話 孤独と自立2

高校生になって初めての授業参観の日、母親が初めて結婚相手を学校に連れてきてくれることになった。何年か振りに会う“おとうさん”になんて言おうかやっぱり照れ臭そうにお礼を言うのがいいかもしれないと思っていた。しかし東京の私学なんか認めないという人が学校まで来ることはなかった。


小学生になる弟は自分と違いどこか母にそっくりだ。テニス好きな母は先生との打合せが終わったらテニスコートを見てみたいというので弟を連れて行こうとした。

友人から呼び止められたのでちょっと待っててねとその場を離れた。少したって戻ると女生徒が弟に心配そうに話しかけてくれている。すぐに駆け寄り弟を抱き上げながら女生徒にお礼を言うと背筋を伸ばしたかのようにどうもと言ってその場を立ち離れていった。




それから学校や寮の食堂で見かけることがあったが目が合うとメガネを外してそそくさと立ち去るのだった。ただでさえ挨拶に厳しい学校なのにどうしたんだろう。そのうちメガネを外しながら薄目に見られることが気になった。考査前に何人かと傾向について情報交換する女子同級生に話をした。


-きっと君のことが好きなんだ。まちがいないよ。

 冷やかすつもりはないけれど家族はいないとか言ってるくらいならその子の気持ち

 にちゃんと向き合うべきだと思うよ。


どうやって向き合ったらいいのか、いままでそんなことを考えもしなかったことに戸惑いと気まずさを覚えた。返す言葉も見当たらない。しかしある日、遠めに会釈をするその後輩を見つけた。翌日寮の前のT字路でそのを待った。遠くにうつむき加減にこちらに向かって歩く姿が見えた。道を少し戻って考えた。そして深呼吸をして走り出した。後ろから軽く肩をたたいて大声で昨日は挨拶できなくてゴメンなと言って駆け抜けた。周りの生徒がびっくりしたりくすくすと笑っている様子が見て取れた。


なんだかとても気持ちが晴れ晴れとした。

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