第七話 夏祭り

その日は朝から抜けるような青空だった。初めて恋を知った少女は、いつもは憂鬱な通学路がどこもかしこもキラキラ輝いて見えることに驚かずにいられなかった。優しくたなびく潮風や街路樹のさざめきも登校する生徒たちが語らう後ろ姿もなにもかもが嬉しかった。


その先輩を知ったのは、中間試験が思わしくなく落ち込んでいたときだった。授業参観の日、休み時間に部室に行こうと外に出ると小学生らしい困った様子の男の子がいた。声をかけようとすると誰かが走ってきてごめんごめんとその子を抱き上げながら優しい笑顔でありがとうと言った。


なんでこんなにドキドキするんだろう?




独りで石垣の路を歩きながら島崎藤村の「初恋」のような詩を創ってみたいなと思った。空を見上げながら浜辺を歩きながら心に響く言葉を探すのが何よりの楽しみになった。そして夏祭りになったら浴衣を着て大好きな先輩を見つけたら心の中で詩を口ずさむんだと心に決めた。


そんな時、道筋の公園のベンチに先輩と女生徒が楽しそうにしているのが見えた。気づかれないようにメガネを外して軽く会釈してうつむきながら足早に立ち去った。しかし翌朝いつのまにか後ろから昨日は挨拶できなくてゴメンなと言って先輩が駆け抜けていった。


こんど好きになる人がいてもやっぱりこんな先輩みたいな人がいいな。

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