第一話 入学式の日

少し開け放たれた窓から柔らかな潮のにおいがする春の夜風が入り込んでくる。


生徒寮の四人部屋に入った初対面の僕たちは、冷めやらぬ昂揚感を抑えきれず緊張しながらもお互いの小学校時代の思い出を誰ともなく話し始めた。卒業アルバムを持ち出して知らないやつのことを詳しく紹介するやつ、好きだった女の子のことを自慢げに話すやつ、ごそごそとポッキーを衣類の下から取り出して食べ始めるやつ。


そのうち出身地やら自分がなんでこんな日本の果てのようなところに来ることになったのかを呟き始めたのは、消灯時間も差し迫ったころだった。見廻りの寮先生に就寝を促され、誰かが照明のスイッチを切った。







少しばかり春の嵐めいてきて海風がヒューヒューと吹いてくる。上のベットから誰かのすすり泣く気配がした。夕方の母親との別れが、誰もの眼に浮かび、今生の別れのように皆一斉に泣き出した。小さなルフィーのフィギアを取り出して泣きながら話しかけているやつもいる。



誰ともなく下のベットに集まりはじめた。暫く泣き止まないやつもいたがいつしか四人とも一つのベットでスースーと寝息をたてはじめた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る