誠情

 人には個性というものがある。人だけでは無い、世の中のあらゆるものにはそれぞれ固有の特徴がある。

 

 私はある模範的な考えを強制する今の世界が大嫌いだ。どうして祭りを楽しまなければならないのか、どうしてクラスのみんなは仲良くないといけないのか、どうして悩みや不安を抱えて続けることが悪いことであるのか。


 人は本音を捨て、世間の基準に自らの感性を押さえつけさせている。そんなの間違いだ。



 親は俗に言う古い考えの持ち主で、私の前では抵抗する自由どころか、弱音も吐かせてくれない程厳しい教育をしていた。


 少しでもミスをすればすぐに拳と罵倒が飛んでくる。そんな扱いでは何にも言えるはずがない。


 とある深夜、異常な吐き気と腹痛で目を覚ましてしまった私は、ふらふらとトイレに向かった。


 着くと、顔を便座に伏せ爆睡する母がいた。


 私は少なくとも数年親の深夜の様子を見ていなかった。だからその姿が彼女にとって普通なのかどうかわからない。


 そして、彼女に声をかけたりして"リスク"を背負うことは、当時の幼い私は避けるべきだと判断した。


 自分の好判断に、自然と笑顔になってしまう。

 

 そのまま帰ろうかと振り返ろうとすると、ベランダに家を出ていこうとする人影が見えた。


 外から風が入り込み、止まる。


 

 気づけば、「いってらっしゃいませ」と声を発していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アイポーツと幸福な処刑場 Onfreound @LieWound

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ