(12)

「彼らは不安のきっかけを捨てることができたのです。素敵でしょう?」


「...」


「分かりますか?ああ、彼らの感謝の声が聞こえてきそうです。聞こえますよね?」


「...」


「彼らは可哀想な存在だったのです。この世界に来てから、皆、何かしらの不安を抱えてしまったのですよ。」


「...」


「あの者は、腕に傷を負い、不安を感じてしまいました。あの者は、歳を重ね動き辛くなった脚に不安を感じていました。あの者は、突然鼻が利かなくなった事に不安を感じていました。あの者は、恋人が轢かれるのを目の当たりにし、不安を感じていました。」


「...」


「彼らは不安を引き起こされたのです。そして、苦しめられ続けたのです。きっと苦しみは増していくでしょうし、新たな不安を生み出されるかもしれない。」


「...」


「だから、私は彼らを不安にさせたものを取り除いてあげることにしたのです。これで今後不安を感じることもなく、幸せになれるのです。ここに住む人の未来に不安は生じ得ないのです。もし不安になることがあれば、ならないように矯正してあげるのです。」


「...」



「だから、あなたももう不安は感じません。なんて素晴らしいことでしょうか。」

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