エピローグ

隣領のスタンピード騒ぎも収まり、いつもの日常が戻ってしばらくしたら、領主様が内輪の昼食会を開いてくれました。

派遣された兵士さんたちには特別報奨金が出されてたので、私とネージュ、ソード君のお疲れ様会みたいだった。


私は、出来たばかりのてんちゃん(元になったスバ○360の愛称から採ってネーミング)に乗って行きました。

案の定、姉妹ちゃんから大絶賛されたよ。


お疲れ様会の参加者は、領主様、ソード君、姉妹ちゃん、私、ネージュ。

ネージュは領主様から褒められ、撫でられまくってた。


豪華な昼食を挟み、まったりしながらいろんな話をしました。

隣領のスタンピードのことも、領主様が教えてくれた。

原因は、未発見だった大型ダンジョンの入口が、大規模な地すべりで埋まったこと。

地すべりが有ったのは、なんと半年前。

ダンジョンがでかくて、スタンピード発生までに時間がかかったらしい。


近くの村では、前々からスライムが森にたくさんいることが知られていた。

村長が調査と討伐を何度も前男爵(前領主)に陳情していたが、前男爵は無視して放置。

去年秋の大雨で森の中にある山が大規模な地すべりを起こしたが、森の中などいくら崩れても関係ないと、前男爵は調査もせずに放置。

そしてスタンピードが発生し、近くの村と隣領領都の間にあった村が、ほぼ全滅。

なんとか逃げ出した人が領都にたどり着き、今回の騒動となった。


またお前か!

前回の襲撃といい今回のスタンピードといい、ほんとろくな事しないな。

もう死んでるけど、なんて迷惑な置き土産だよ。


今、隣領にはマギ君とシャルちゃんが居て、マギ君が陣頭指揮を執ってるそうな。

王家直轄領だから代官だと権限が制限されてるらしく、マギ君が居てくれることで、即応性のある対処が出来てるみたい。

原因の判明も、マギ君が指示した調査隊が見つけたんだって。


マギ君は、私が治療に使ったハイグレードポーションに軟膏や丸薬、医師が目を見張るほど効果的で携帯性も良いと、非常時の備蓄品や緊急支援物資として注文してくれたらしい。


グレード9ポーションは一本で他のポーション二、三本分の効果あるし、軟膏は液体じゃないから乾燥しにくく効果が持続する。

丸薬は液体ポーション飲むのに比べて即効性は低いけど、骨折など継続的な治癒効果が必要なケガには最適だからね。

マギ君、ありがとね。

領主様からも、いっぱい褒めてもらっちゃった。


そんな話の中で、驚きが一つ。

なんでシャルちゃんがマギ君と一緒にいるのかと思ったら、マギ君と婚約してるんだって!

マジかよ、おうち来た時に教えてよ!!

せっかくイジるチャンスだったのに……あ、ひょっとして私にイジられたくなくて言わなかったのか?ちぇー。


おっと、マギ君の話ね。

今度見つかったダンジョン、大きさはかなりのもので、檻詰めスライムと核の出荷を、衰退した林業の代替産業として確立したいらしい。

でも、森に散ったスライムも大量だから、領兵使って徐々に討伐進めるみたい。


なんで騎士団とか使って一気に討伐しないのかと思ったら、私たちのせいだって。

私たちが北門前で繰り広げたジェノサイドを多くの兵士さんたちが見てたらしく、『自分たちは弱すぎる。自領や家族を守るためにも強さが必要と思い知った。ぜひスライムの討伐をお任せください』と、室温が上がる勢いで嘆願されたとか。


「村二つを全滅させた数千匹のスライムに街を囲まれて悲壮な覚悟をしていたら、応援に来た十二人が二十分ほどでスライムを殲滅。しかも全員無傷で治療行為をする余裕まである。そして、夜通し離れた場所からスライムを討伐できる子供と猫。実際に見なければ誰も信じない夢物語だ」


領主様に客観的に説明され、ちょっと反省。

私たちって、応援のはずなのに、大半のスライム倒しちゃってるな。

もっと向こうの兵士さんたちと連携するべきだったかも。


姉妹ちゃん関連では、釣書がいっぱい来てるんだって。

中には侯爵家の継嗣からのものも。

モテモテだねって言ったら、微妙な顔で苦笑いされた。


「私たちがマイスターになってから来出したのよ。それもほとんど交流のない上位貴族家からね。目的バレバレでしょ」

「をう、能力目当てで飼い殺しコース?」

「ええ、嫁げば私たちに味方はいないでしょうね。飼い殺しって、うまいこと言うわね」

「私たち、今すっごく楽しいの。なんでわざわざ楽しくないとこ行かなきゃいけないのよ」

「でも、上位貴族からだとお断りは大変なんじゃ…」

「大丈夫よ。魔学研究所の上級職員は、法衣子爵扱いで王家の後援も就くのよ。上位貴族からの無理難題で、技術を搾取されないための措置なの。結婚も本人が嫌だって言えば、王家から断り状が行くわ」

「なるほど。直接断ると嫌がらせされそうだけど、王家からの断り状じゃ文句言えないもんね。嫌がらせなんかしたら王家に叛意ありって見られちゃうし。やるな王家」

「マギ君が進言した制度なの。ほんと助かるわ」

「おお、さすがマギ君!」

「あなたの言った通り、ほんとに半年以内に会っちゃったけど、私たちの車見て質問攻めにされて、畏れ多い気持ちとか吹っ飛んじゃったわ」

「うんうん、マギ君は探求者だからね」

「私、薬師さんから聞いてたから、お付きの人たちがいない時に、こっそり『マギ様』って呼んだら、『そこは君付けでしょ!』って突っ込まれたの。凄い親しみやすかった」

「あはは、マギ君らしいね」


不敬とか考えず、いない人の話で盛り上がってしまった。


ゆったりまったりと時間を過ごし、三時のおやつを頂いてから帰りました。

いつものごとくお泊り要求されたけど、お墓参りに行きたいからって言って帰ってきた。

登り道をおうちに向かわず、お墓に到着です。


「父ちゃん、母ちゃん、今日は報告があるんだ」


お墓の前にしゃがみ、話始めます。


「この一年、いろんなことがいっぱい有ったけど、なんとか薬師としてやってきたよ。


今日は領主館で昼食会開いてもらったの。

ごちそうたくさん食べたし、親しい人たちと楽しく過ごせたよ。


領主様からは薬師の仕事を褒めてもらえたの。

思わず泣きそうになって、涙こらえるのが大変だったよ。

父ちゃんと母ちゃんの娘が、薬師として領主様に褒められたんだよ。

あ、王子様からも褒めてもらえたね。マギ君だけど。


泣きそうになったのは、褒められて嬉しかったのもあるけど、それ以上に悲しかったんだよ。

私が作り出した物を盗ろうとして、多くの人が死んでるの。

このことについてはいっぱい考えて、私の覚悟が足りなかったっと反省もした。

悪人が捕まって裁かれるのは多くの善良な人たちの為になるし、そうあるべきだとも思う。


でも、私の覚悟、まだ足りてなかったよ。

刑を執行してるのは領主様なの。

ソード君や兵士さんたちも、襲われて戦いになって、手を汚してる。

みんなの手を汚させておいて、私はみんなの陰に隠れて手を汚してない。

私の事を褒めてくれる良い人たちに手を汚させておいて、私はなにやってるんだって情けなくなったの。


だからね、父ちゃん母ちゃん。

二人の二番目の願い、『心優しい薬師であって欲しい』というのは、いつまで守れるかわかんないの。


薬師は、他人を傷つけたりしないよね。

でも、今度私がらみでなんか有ったら、私は手を汚すことを躊躇わないって覚悟した。

それだけじゃなくてね、友達が増えたから、もし私の事が原因じゃなくても、友達が襲われたりしたら、私は躊躇わないよ。


もちろんそんな機会は来ないのが一番いいんだけど、『その時が来るまでは二番目の願いを守る』ってことで許して。


去年父ちゃんと母ちゃんが死んで、私には一緒に生きててほしいと思う人がいなくなったの。

でもね、この一年でいっぱい生きててほしい人が増えたんだ。

まずはネージュでしょ。それからソード君や領主様、従者さん、隊長さん、副長さん、鍛冶屋のおじさん、鉱山の主任さん、兵士さんたちもだね。

あと、マギ君、シャルちゃん、姉妹ちゃん、とにかくいっぱい増えたんだ。

みんな、父ちゃんと母ちゃんとの約束をやぶってでも助けたいと思うほどの人たちなんだよ。


今回の隣領のスタンピード。ソード君に助けってって言われて嬉しかったんだ。

もちろん薬師として頼られたのも嬉しかった。

でも、それ以上に嬉しかったのは、一緒に戦ってくれたこと。


私は薬師であって、兵士じゃない。

ソード君の立場からすれば、私を戦いに参加させるのはまずいはず。

でも、ソード君は当たり前のように私に作戦聞いてくれた。

私やネージュの事を、守る対象じゃなくて一緒に戦う仲間扱いしてくれたことが、ものすごく嬉しかったんだ。


だから思っちゃったの。

たとえ相手がスライムじゃなかったとしても、私はソード君と一緒に戦う仲間でいさせてほしい。

もちろん戦いだけじゃなく、色んなことを一緒に出来る仲間に。

私にも、そう思える友達が出来たんだよ。


そうだ、増えた友達もちゃんと紹介しなきゃね。

女の子の友達が三人も増えたんだよ。

姉妹ちゃんとシャルちゃん。

姉妹ちゃんはね―――」


伝えたいことが多すぎて、両親にちゃんと伝わったかどうかはわかんないけど、とめどなく、嬉しかったことをっぱい両親に報告しました。




さて、ネージュ、私たちのおうちに帰ろう!


完。

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辺境薬師の研鑽12ヶ月 やっつけ茶っ太郎 @chimilunamiy

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